南極隕石が明らかにした月の火山活動の変化
【2023年2月20日 国立極地研究所】
月は今から約44億年前に、原始地球に天体が衝突したことで形成されたと考えられている。
誕生直後の月は全体が溶融していたが、マグマの海が冷えるにつれて、晶出したカンラン石や輝石などの鉱物が底に沈んでマントルを作る一方、軽い斜長石は浮上して地殻を形成した。さらにマグマの冷却が進むにつれて、マントル層の上にチタンなどの重い物質を含む層が形成された。その結果、チタンなどの層が沈んでマントルの層構造が逆転する「マントルオーバーターン」という現象が起こったとされる。
マントルオーバーターンに伴ってマントルに取り込まれた物質の中に、カリウム(K)、希土類元素(rare-earth element、REE)およびリン(P)の「KREEP」と総称される成分があった。KREEPには放射性元素が多く含まれていたため、それらが熱源となりマントルが溶融し、溶岩が地表に噴出した。この溶岩が大きな盆地などを満たし、冷えて黒い玄武岩になったのが、月の海だ。
アメリカのアポロ計画などで回収された玄武岩は、ほとんどがこのKREEPを含むタイプだった。一方、月から弾き飛ばされた岩石が地球に飛来した「月隕石」の中には、KREEPをほとんど含まないものもあったが、それらがどのように形成されたかは、これまでよくわかっていなかった。
そこで、インド物理学研究所/インド工科大学ガンディーナガル校のYash Srivastavaさんたちの研究チームは、南極で採取された月隕石「Asuka-881757」について、モデル計算を行って形成温度や深度を推定した。
Asuka-881757は、1988年~1989年に第29次南極地域観測隊によって、「あすか基地」の南に広がるナンセン氷原で採集された。その特徴として、KREEPをほとんど含まないことのほか、形成年代が39億年前と古いことが挙げられる。
研究チームは、走査電子顕微鏡や電子プローブマイクロアナライザ、ICP(誘導結合プラズマ)質量分析計などの分析装置を用いて、Asuka-881757の化学組成や鉱物を分析し、岩石学的モデル計算を行った。さらに、アポロ計画で採取された月試料のデータや、ほかの月隕石の分析結果と比較した。
その結果、Asuka-881757は、浅い低温のマントルを起源としていることが明らかになった。一方、アポロ計画で回収された玄武岩は、より深い高温のマントルを起源としている。つまり、両者は明らかに別のメカニズムで形成されたということになる。Asuka-881757の形成年代である39億年前から、KREEPによるマントル溶融・溶岩噴出が起こった33億年前にかけて、月のマグマ活動の要因が大きく変化したことを示す結果だ。
今回の成果は、今から44年前に採取された南極隕石を最新の分析装置を使って研究した結果得られたものだ。アポロなどの探査では採取地に偏りがあるが、月隕石の起源は全表面にまんべんなく分布している可能性がある。そうした隕石をさらに研究することで、月の火山活動の詳しい歴史が解き明かされると期待される。
〈参照〉
- 国立極地研究所:南極隕石が明らかにした月の火山活動の変化
- Nature Communications:A changing thermal regime revealed from shallow to deep basalt source melting in the Moon 論文
〈関連リンク〉
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