【星ナビ取材】ガンマ線でリュウグウの謎に挑む研究の最前線
【2022年12月12日 星ナビ編集部】
11月15日(火)、編集部は茨城県東海村にある日本原子力研究開発機構(JAEA)原子力科学研究所を訪れた。同研究所では現在、研究用原子炉の中性子ビームを使って、「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウの粒子の分析が行われている。その現場を取材した。
案内してくれたのは、同研究所の物質科学研究センター研究主幹を務める大澤崇人さんだ。大澤さんは「はやぶさ2」の初期分析を行う6チームの一つ、「石の物質分析チーム」のメンバーでもあり、9月には、同じ東海村にある大強度陽子加速器施設(J-PARC)でミュオンを使ったリュウグウ粒子の元素分析結果を発表している(参照:「リュウグウ粒子から炭酸・塩が溶け込んだ水を発見」)。
今回はこの初期分析とは別に、大澤さんたちが独自にリュウグウ試料の第1回国際研究公募(国際AO)に応募して行っている研究を見学させていただいた。「はやぶさ2」が地球に持ち帰った計5.4gのリュウグウ試料のうち、15%(約0.8g)分がこの国際AOによって世界の研究者に提供される。第1回公募では57件の研究提案のうち、大澤さんたちなど40グループ(9か国)の提案が採択され、計0.23g分の試料が分配された。現在は第2回公募の分配先を選定中だ。
大澤さんたちのグループには「はやぶさ2」の第1回・第2回タッチダウンで得られた試料粒子が1個ずつ計2個提供され、現在分析が行われている。大澤さんたちの研究テーマは、同研究所の研究用原子炉「JRR-3」から出る中性子ビームをリュウグウ粒子に照射し、試料中の様々な元素の原子核が放出する「即発ガンマ線」のスペクトルを測定して、元素の精密な定量を行うというものだ。
元素分析は、試料の組成や成り立ちを知る上での基本情報となる重要な分析で、リュウグウ試料の元素分析もすでに複数のチームが行っている。異なる試料を異なる手法で分析することで、リュウグウ試料の多様性がわかったり、複数のチームの分析を比較することで新たな発見につながったりする可能性がある。
元素分析の主な手法には、試料にX線を当てて原子の軌道電子から出てくる「特性X線」を見る「蛍光X線分析法(XRF)」や、試料を溶かした溶液を高温のプラズマに噴霧してイオン化させ、質量分析を行う「誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)」といったやり方がある。これまでに初期分析チームなどで行われたのもこれらの分析方法だ。だが、ICP-MSは貴重な試料を破壊して溶液に溶かさなければならない短所がある。また、XRFは試料を非破壊で分析できるものの、試料のごく表面しか分析できず、定量分析の精度もあまり高くない。
大澤さんたちの即発ガンマ線元素分析では、試料を非破壊で分析でき、しかも中性子が試料を完全に透過するので試料全体の組成を調べられる。定量分析の精度も非常に高い。即発ガンマ線の分析装置を持つ研究機関はJAEAを含め、世界で4か所しかないという。とくに、この方法は軽元素を感度よく分析できるので、水や揮発性元素を多く含むと考えられるリュウグウの試料分析にはうってつけだ。
「リュウグウ試料の分析の場合、水素の濃度を最も正確に定量できる方法はこの即発ガンマ線分析です」(大澤さん)。
大澤さんたちは約3週間をかけてリュウグウ試料を測定し、得られたデータを分析するとともに、同じ条件で様々な隕石試料も分析して比較を行うことにしている。どんな結果が得られるか楽しみだ。
※ 取材結果は『星ナビ』2023年2月号(2023年1月5日発売)で詳しくレポートします。
〈参照〉
〈関連リンク〉
- Ryugu Sample Database System
- 日本原子力研究開発機構 JRR-3
- 「はやぶさ2」:
- YouTube:JAXAチャンネル
- 星ナビ.com
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:
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