リュウグウのサンプルから発見された予想外の鉱物「ジャーフィシャー鉱」

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小惑星リュウグウから採取されたサンプルに、カリウムを含む鉱物「ジャーフィシャー鉱」が見つかった。リュウグウにこれまで考えられていなかった環境や現象があった可能性を示唆する予想外の発見だ。

【2025年7月16日 広島大学

探査機「はやぶさ2」が地球に持ち帰った小惑星リュウグウの試料は、地球に落下する隕石のうち「CIコンドライト」と非常によく似た特徴を持つことがわかっている。CIコンドライトは太陽系が誕生して間もない時期に形成され、過去に水の影響を強く受けていることが知られていて、太陽系初期における水の働きや化学環境の変遷について重要な手がかりをもたらしてきた。

CIコンドライトはナトリウムなどのアルカリ元素を多く含む鉱物が非常に少なく、その原因は過去の水質変成によってそれらの成分が溶け出したことだと考えられている。ところが、近年の研究ではリュウグウ試料にアルカリ成分を多く含む鉱物や痕跡が存在する可能性が明らかになっていて、実際にナトリウムが高濃度で存在する領域や、ナトリウムの炭酸塩・塩化物・硫酸塩が見つかっている。

広島大学の宮原正明さんたちの研究チームは、別のアルカリ元素であるカリウムを含む鉱物がリュウグウの試料に存在するかどうかを分析し、カリウムを含む鉄ニッケルの硫化物の鉱物「ジャーフィシャー鉱(djerfisherite)」を発見した。

リュウグウ粒子とジャーフィシャー鉱
(左)リュウグウ粒子の電子顕微鏡像。(右)ジャーフィシャー鉱の透過型電子顕微鏡像。中央部の細長い黒い粒子がジャーフィシャー鉱(大きさは約1μm以下)(提供:広島大学リリース、以下同)

ジャーフィシャー鉱の存在は、これまではエンスタタイトコンドライトやオーブライトといった太陽系内でも特に高温かつ酸素の少ない(還元的な)環境で形成された隕石でしか報告されていない。リュウグウのような低温・水質変成を受けた環境では生成しないとされる、極めて特異な鉱物であり、今回の発見は予想外のものだ。

宮原さんたちはリュウグウの試料で見つかったジャーフィシャー鉱の起源について、2つの可能性を指摘している。一つは、太陽系が誕生して間もないころに太陽系の内側の高温領域でジャーフィシャー鉱を含む母天体が形成され、その破片がリュウグウの母天体に取り込まれたというもの(外来起源説)だ。もう一つは、天体衝突などによってリュウグウ内部に局所的に高温・還元的な環境が形成され、カリウムと鉄硫化物が反応してジャーフィシャー鉱が生成されたというもの(内部生成説)である。粒子周囲の組織が乱れていないことや鉱物の状態から、研究チームでは「内部生成説」の方が有力と考えている。

ジャーフィシャー鉱の2つの起源説の概念図
ジャーフィシャー鉱の2つの起源説の概念図

今回の発見はリュウグウが化学的に複雑な構造を持っていた可能性を示唆するもので、リュウグウが一様な組成を持つという従来の見解を再検討する必要がありそうだ。分析や考察が進むことで、太陽系初期の物質循環や天体の環境変化の再構築に向けた知見が得られることも期待される。

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