天の川銀河を取り巻くガンマ線放射を発見、ダークマター由来か

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ガンマ線天文衛星のデータの解析から、天の川銀河を取り巻くハロー状のガンマ線放射が見つかった。ダークマターの対消滅で生じたガンマ線かもしれない。

【2025年11月28日 東京大学大学院理学系研究科

宇宙の全エネルギー組成の約27%を占めるダークマター(暗黒物質)は、質量を持っていて重力は及ぼすが、光(電磁波)では観測できないという謎の物質だ。その正体は宇宙最大の謎の一つとなっていて、様々な候補や仮説が提案されているが、今のところWIMP(weakly interacting massive particle; 弱い相互作用をする重い粒子)と呼ばれる未知の素粒子が有力視されている。

もしWIMPがダークマターの正体だとすると、宇宙に存在するWIMP粒子とその反粒子がまれに衝突して対消滅し、そのときに数GeV(ギガ電子ボルト)以上という高エネルギーのガンマ線(対消滅ガンマ線)を放射すると期待される。そこで、天の川銀河の中心方向など、ダークマターが集まっていると思われる領域から届くガンマ線が長年探索されてきた。

WIMPの対消滅
ダークマターの候補であるWIMP(χ)の対消滅過程を示した模式図。2個のWIMPが対消滅すると、そのエネルギーから2個の重い粒子(W/Z粒子やクォーク+反クォーク)が対生成する。これらの粒子が崩壊してパイ中間子ができ、パイ中間子が高エネルギーのガンマ線光子2個に崩壊する(右上の崩壊モード)(提供:NASA Goddard Space Flight Center

ただし、宇宙にはダークマター以外にもガンマ線を放射する様々な天体がある。たとえば、太陽フレア、超新星爆発や中性子星・ブラックホール、活動銀河核などだ。私たちの天の川銀河にはこうしたガンマ線源が銀河面沿いにたくさんあり、また銀河面に垂直な方向にも、ガンマ線を放射する2つの巨大な構造があって「フェルミ・バブル」と呼ばれている。フェルミ・バブルができた原因は不明だが、過去に天の川銀河中心の超大質量ブラックホールが何らかの激しい活動を起こした痕跡と考える説が有力だ。

そのため、ダークマターに由来するガンマ線を探す際には、こうした既知のガンマ線成分を丁寧に取り除いて微弱なシグナルを慎重に探す必要がある。

東京大学の戸谷友則さんは、NASAのガンマ線天文衛星「フェルミ」が取得した最新15年分の天の川銀河のデータを利用して、ダークマター由来のガンマ線の兆候を探した。フェルミには広視野の「LAT」とガンマ線バーストの検出に特化した「GBM」という2種類のガンマ線検出器が搭載されている。戸谷さんはLATのデータを使い、銀河中心から60度の範囲を観測したデータから銀河面の部分を除いて、その他の天体起源のガンマ線放射も慎重に差し引き、ハロー状の成分が含まれていないかを調べた。

解析の結果、約20GeVのエネルギーを持つガンマ線放射が天の川銀河の中心から球対称にぼんやりと広がって分布していることを突き止めた。この放射はダークマターハローからガンマ線が放射されると考えた場合の形状によく一致している。

ハロー状のガンマ線放射
今回発見された、天の川銀河を取り巻くハロー状のガンマ線放射。銀経は銀河中心から銀河面に沿った方向に測った経度、銀緯は銀河面から垂直に測った緯度。中央の灰色の帯部分には天の川銀河の銀河面があり、解析からは除かれている(提供:東京大学大学院理学系研究科リリース、以下同)

このガンマ線放射は20GeV付近で特に強く、それよりエネルギーが低い領域や高い領域では急激に弱くなっている。一般に、天体起源のガンマ線には様々なエネルギーのものが含まれ、このように特定のエネルギーだけ強いという依存性は示さない。今回見つかったガンマ線放射は、陽子の500倍程度の質量を持つWIMPが対消滅する場合に放射されるものとエネルギー依存性がよく合致している。

また、放射の強さから見積もった対消滅の頻度も、理論予想とおおむね合っている。これらの理由から戸谷さんは、今回見つかったハロー状のガンマ線放射がダークマター由来のガンマ線の有力候補と考えている。

ハロー状放射のエネルギースペクトル
今回見つかったガンマ線放射のエネルギースペクトル。20GeV付近で特に強い。質量が500GeV程度(陽子の約500倍)のダークマター粒子が対消滅し、まずbクォークと反bクォークが対生成して最終的にガンマ線になる場合(赤の実線)、まずWボソンが対生成して最終的にガンマ線になる場合(青の破線)に予想されるスペクトルが、データ(黒丸)と特によく合っている

今回の発見が事実なら、ダークマターの正体はWIMPだということになり、現在の素粒子物理学の標準理論に存在しない新粒子が間接的に発見されたことになる。ただし、最終的な確定にはまだ多くの検証や研究が必要だ。他の研究者による独立な検証や、天の川銀河のハローに存在する矮小銀河など、他の領域からも同様のガンマ線が検出されるかどうか、といった点が次のステップとなる。

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