パルサー周辺で生まれる超高エネルギーガンマ線をとらえた

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パルサー天体「ゲミンガ」の周囲で発生する超高エネルギーのガンマ線が、可視光線の約100兆倍という世界最高のエネルギー領域で初めて精密に観測された。

【2026年3月11日 東京大学宇宙線研究所

宇宙には「宇宙線」と呼ばれる高エネルギーの粒子が飛び交っている。地球付近で観測される宇宙線の源は大きく分けて、天の川銀河の内部と外の2種類があると考えられているが、その正体や生成過程には不明な点が多い。天の川銀河内で生まれる宇宙線の場合、最高エネルギーが「ペタ電子ボルト(PeV)」(=1000兆電子ボルト)に達するものもある。

宇宙線の荷電粒子は宇宙空間の磁場に進行方向を曲げられるため、発生源を直接突き止めるのは難しい。だが、宇宙線粒子が電子の場合には、強い磁場に出会うと磁力線に巻き付くようにして高速で進み、「シンクロトロン放射」という光を出す。また、高エネルギーの電子が周りの光子と衝突することで、光子がエネルギーをもらって高エネルギーのガンマ線やX線になる「逆コンプトン散乱」を起こすこともある。

こうして発生したガンマ線は磁場の影響を受けずに直進するので、ガンマ線を調べれば宇宙線の発生源やその周囲の環境、宇宙線が加速されるしくみなどを知るヒントになると考えられる。

そこで、宇宙線やガンマ線の正体解明を目指して、日本や中国などの研究者が国際プロジェクト「チベットASγ(エイ・エス・ガンマ)実験」を行っている。この実験では、中国チベット自治区の標高4300mに観測装置を設置し、高エネルギーの宇宙線やガンマ線が地球大気に飛び込んで二次粒子を大量に生み出す「空気シャワー」の粒子をとらえ、宇宙線やガンマ線のエネルギーや到来方向を調べている。

空気シャワー観測装置
(左)チベット高原に設置されている「チベットASγ」実験の空気シャワー観測装置、(右)装置の地下にある注水前の水チェレンコフ型ミューオン検出器(提供:東京大学宇宙線研究所リリース)

同グループは2014年から約2年にわたって、ふたご座の方向約800光年の距離にあるガンマ線天体「ゲミンガ(Geminga)」を観測した。ゲミンガは全天で2番目に明るいガンマ線源で、中心には約30万歳とやや古いパルサーがあり、その周囲ではパルサーから吹き出すプラズマ(パルサー風)が超新星残骸と衝突して電子や陽電子が加速されている。このような天体は「パルサー風星雲」と呼ばれ、ガンマ線を放射する領域がハロー状に広がる「ガンマ線ハロー」が見られる。

この観測で今回、ゲミンガのガンマ線ハローが100兆電子ボルト(100TeV、0.1PeV)を超える世界最高のエネルギー帯で精密にとらえられた。

ゲミンガ
(左)パルサー天体「ゲミンガ」。X線天文衛星「チャンドラ」によるX線画像(ピンク・青)と赤外線宇宙望遠鏡「スピッツァー」による赤外線画像(モノクロ)を合成した擬似カラー画像。(右)ゲミンガパルサーと星雲のイラスト(提供:X-ray: NASA/CXC/PSU/B.Posselt et al; Infrared: NASA/JPL-Caltech; Illustration: Nahks TrEhnl

観測データを分析したところ、ゲミンガのガンマ線ハローでは、エネルギーが約100TeVよりも高い領域でガンマ線が急減することが確認された。このことから、ゲミンガのパルサー風星雲では電子が加速される限界エネルギーが約100TeVであることが初めて直接示された。

その一方、有名な超新星残骸で、最強クラスの粒子加速器としても知られる「かに星雲」では、ペタ電子ボルト(=1000TeV)級の電子が存在することが示唆されている。これらの事実から、天体の年齢や物理環境によって、粒子を加速する能力は大きく異なる可能性があることが明らかになった。パルサー風星雲で電子が加速されるしくみや天体進化の理解に重要な影響を与える成果だ。

ゲミンガ周辺のガンマ線画像
「チベットASγ」実験の空気シャワー観測データから描き出した、ゲミンガ周辺のガンマ線画像。エネルギーが100~251TeVのガンマ線について描いたもの。緑の三角形がゲミンガパルサーの位置を表す。緑の×印は別のパルサー「PSR B0656+14」の位置(提供:東京大学宇宙線研究所リリース)

さらに、ゲミンガの近傍で宇宙線粒子がどのくらい速く広がっていくかを示す「拡散係数」も明らかになった。拡散の強さは、宇宙線が磁場の乱流によってどのように散乱されながら地球まで届くのかを知る手がかりとなる。今回、約16~250TeVのエネルギー範囲でガンマ線ハローの広がりを調べたところ、拡散係数が一般的な銀河空間の約100分の1ほどしかなく、粒子の拡散が強く抑えられていることがわかった。言い換えれば、ゲミンガで生成された宇宙線電子は宇宙空間に出ていきづらい性質を持っていることになる。

こうした特徴は、「宇宙線に含まれる高エネルギーの陽電子が、なぜか理論の予想以上に多い」という宇宙物理学の謎(陽電子過剰)を解く上でも重要な制約を与えるかもしれない。

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