小惑星リュウグウがかつて彗星だった可能性を指摘

このエントリーをはてなブックマークに追加
探査機「はやぶさ2」が訪れた小惑星リュウグウは、かつて水の氷を主成分とする彗星だったと仮定すれば、現在の特徴を説明できることが理論的研究から判明した。

【2022年3月28日 名古屋市立大学岡山大学

探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから地球に持ち帰った物質を調べれば、太陽系における岩石や生命起源物質の形成に関する情報が得られると期待されている。しかし、リュウグウそのものがどのように形成されたかは諸説あり、未解明の部分が多い。

「はやぶさ2」が明らかにしたリュウグウの主な特徴としては、以下の3点が挙げられる。

  • 岩石の塊が弱く集合した多孔質な内部構造(ラブルパイル構造)
  • 高速自転による変形を示唆するコマ型の形状
  • 有機物に富む組成

リュウグウの起源としてもっとも有力視されているのが、より大きな小惑星同士が衝突した破片から形成されたという説だ。これはラブルパイル構造とコマ型の形状を説明できるが、有機物が他の小惑星より多い点は説明できない。

名古屋市立大学の三浦均さんたちの研究チームは、リュウグウがかつて彗星であったとする「彗星起源説」に着目した。彗星の核は主に水の氷からなり、内部には岩石も含まれていると考えられる。その彗星核が太陽に近づくと氷が昇華し、最終的には蒸発しない岩石だけが残る。彗星核には星間物質に由来する有機物が多く取り込まれていると推測されるため、リュウグウがそこから生まれたのだとすれば、有機物が豊富な点が説明できる。

三浦さんたちは氷が昇華して彗星核が収縮する過程を数値的に計算し、リュウグウの構造と形状も再現できることを示した。

研究の概念図
今回の研究の概念図。画像クリックで拡大表示(提供:Miura et al. 2022)

絶対温度200度(摂氏約マイナス70度)まで加熱された場合、彗星核内部の氷はおよそ数万年という比較的短い期間でほぼ完全に消失する。このとき、彗星核の半径が1.2kmであれば、残された岩石と塵はゆるやかにまとまり、半径約420mのリュウグウとほぼ同じラブルパイル構造の小惑星になるという。

さらに、彗星核が収縮すると自転も加速する。これは腕を広げて回転するフィギュアスケーターが、その腕を自身の身体に巻き付けることによってスピンアップするのと同様だ。計算によれば、天体の自転速度は最終的に約4倍にまでなる。現在の太陽系に存在する彗星の典型的な自転周期は約12時間なので、リュウグウの元になった彗星核も同じ自転周期だったとすれば、氷昇華後の自転周期は約3時間だ。自転周期が3.5時間以内であれば、赤道付近で遠心力が重力に勝り、ラブルパイルをコマ型に変形させることがわかっている。

これらの結果はリュウグウがかつて彗星であったことを強く示唆するものであり、「はやぶさ2」が持ち帰った物質が経験したであろう物理的・化学的環境を推測する上で一つの筋道を示してくれる。この理論モデルとリュウグウの試料の分析結果とを比較検討することで、太陽系における物質の起源や進化に関する理解が飛躍的に進むことが期待される。

〈参照〉

〈関連リンク〉

関連記事