小惑星ファエトンによる恒星食、アメリカで歴史的な観測成功

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小惑星ファエトンによる7等星の恒星食が7月29日にアメリカ西部で観測された。ファエトンの大きさを推定するうえで重要なデータとなる観測で、8月22日の明け方に日本で起こる同様の恒星食についても期待が高まる。

【2019年8月14日 星ナビ編集部

報告:早水勉さん(佐賀市星空学習館HAL星研

小惑星ファエトン((3200) Phaethon)は、ふたご座流星群の母天体として知られている。小惑星としては極めて特異で、研究の対象として注目される天体だ。JAXAの「DESTINY+」ミッションの探査目標天体となっていることは、本サイト7月31日付のニュース「小惑星ファエトンによる恒星食を観測して、フライバイ計画DESTINY+を支援しよう」でも紹介したとおりである。

意外に思うかもしれないが、小惑星ファエトンの大きさは直径約5km程と見積もられているものの、正確にはわかっていなかった。大きさを正確に測るには小さすぎるのだ。

7月29日、このファエトンの大きさを推定するための絶好の機会が訪れた。アメリカ西部で起こった、ファエトンによるぎょしゃ座の7.3等星(HIP 24973)の掩蔽だ。これほど明るい恒星食は、日本国内で見られる小惑星による恒星食を見渡しても年間に数件しかない。これがファエトンによるものだから、まさに千載一遇のチャンスである。しかし、これほど小さい小惑星の恒星食観測は、世界的に見ても過去にほとんど成功例がない。今回の現象は掩蔽帯(見られる地域)があまりに狭く、また食の継続時間も最大でもわずか0.5秒しか見込めない極めて困難なものだった。

ファエトンの正確な大きさを知るため、DESTINY+サイエンス検討チームと国立天文台は、国際掩蔽観測者協会(IOTA)、米・ジェット推進研究所(JPL)にこの恒星食の観測を依頼した。この依頼に基づいて、マーク・ブーイさん(米・サウスウエスト研究所)とスティーブ・プレストンさん(IOTA)たちの努力により、掩蔽帯の幅方向に約20km(約99.7%の確率で現象が見られる範囲)という、かつてない精度の高い予報が計算された。この範囲の中に約30地点の移動観測隊を計画的に布陣し、この小さな小惑星をも逃さないきめ細かい観測網が敷かれた。

掩蔽帯
2019年7月29日の、ファエトンによる恒星食の予報掩蔽帯。ロサンゼルスの北約200kmの地域だった。掩蔽帯の南北の外側のライン(薄い線)が誤差範囲。この幅約20kmの範囲に約30地点で布陣した(地図画像の出典:Google, INEGI)

そして予報のほぼ中心において、少なくとも6地点で見事に、ファエトンによる食に伴う恒星の減光が観測された。結果的に掩蔽帯の予報位置の誤差はわずかに数百mという驚くべき精度だった。

デビッド・ダナムさん(IOTA)たちが整約した観測成果により、ファエトンの形状について5.67km×4.72kmの楕円形の断面が浮かび上がってきた。この結果は、さらに今後の研究により改定される可能性がある。

整約結果
ファエトンによる7.3等星の食の暫定的な整約結果。画像クリックで表示拡大(提供:ジョン・ムーアさん、デイブ・ヘラルドさん、デビッド・ダナムさん)

この成果はもちろん、今後のDESTINY+ミッションの研究に資するものだが、それだけではなく、掩蔽観測の新時代が到来したことを感じさせるものでもある。この観測が成功するまでは、明らかにとんでもなく無謀な対象であったが、プロアマ多くの天文家たちにより、見事に記念碑的な成功が導かれたのだ。

8月22日明け方には、いよいよ日本で、ファエトンによる恒星食が起こる。DESTINY+サイエンス検討チームでは、この現象を迎え撃つために、天文学者やアマチュアの天文観測家らを集結した観測チームを組織中だ。この現象は、アメリカの現象よりも対象星が微光(約12等)でさらに難しい観測となるが、現在約15サイトで観測予定で、ファエトンを違う角度から見た断面を取得する計画となっている。アメリカでの成功に続く、さらなる成果を期待しよう。

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