小惑星ファエトンによる恒星食、アメリカで歴史的な観測成功
【2019年8月14日 星ナビ編集部】
小惑星ファエトン((3200) Phaethon)は、ふたご座流星群の母天体として知られている。小惑星としては極めて特異で、研究の対象として注目される天体だ。JAXAの「DESTINY+」ミッションの探査目標天体となっていることは、本サイト7月31日付のニュース「小惑星ファエトンによる恒星食を観測して、フライバイ計画DESTINY+を支援しよう」でも紹介したとおりである。
意外に思うかもしれないが、小惑星ファエトンの大きさは直径約5km程と見積もられているものの、正確にはわかっていなかった。大きさを正確に測るには小さすぎるのだ。
7月29日、このファエトンの大きさを推定するための絶好の機会が訪れた。アメリカ西部で起こった、ファエトンによるぎょしゃ座の7.3等星(HIP 24973)の掩蔽だ。これほど明るい恒星食は、日本国内で見られる小惑星による恒星食を見渡しても年間に数件しかない。これがファエトンによるものだから、まさに千載一遇のチャンスである。しかし、これほど小さい小惑星の恒星食観測は、世界的に見ても過去にほとんど成功例がない。今回の現象は掩蔽帯(見られる地域)があまりに狭く、また食の継続時間も最大でもわずか0.5秒しか見込めない極めて困難なものだった。
ファエトンの正確な大きさを知るため、DESTINY+サイエンス検討チームと国立天文台は、国際掩蔽観測者協会(IOTA)、米・ジェット推進研究所(JPL)にこの恒星食の観測を依頼した。この依頼に基づいて、マーク・ブーイさん(米・サウスウエスト研究所)とスティーブ・プレストンさん(IOTA)たちの努力により、掩蔽帯の幅方向に約20km(約99.7%の確率で現象が見られる範囲)という、かつてない精度の高い予報が計算された。この範囲の中に約30地点の移動観測隊を計画的に布陣し、この小さな小惑星をも逃さないきめ細かい観測網が敷かれた。
そして予報のほぼ中心において、少なくとも6地点で見事に、ファエトンによる食に伴う恒星の減光が観測された。結果的に掩蔽帯の予報位置の誤差はわずかに数百mという驚くべき精度だった。
デビッド・ダナムさん(IOTA)たちが整約した観測成果により、ファエトンの形状について5.67km×4.72kmの楕円形の断面が浮かび上がってきた。この結果は、さらに今後の研究により改定される可能性がある。
この成果はもちろん、今後のDESTINY+ミッションの研究に資するものだが、それだけではなく、掩蔽観測の新時代が到来したことを感じさせるものでもある。この観測が成功するまでは、明らかにとんでもなく無謀な対象であったが、プロアマ多くの天文家たちにより、見事に記念碑的な成功が導かれたのだ。
8月22日明け方には、いよいよ日本で、ファエトンによる恒星食が起こる。DESTINY+サイエンス検討チームでは、この現象を迎え撃つために、天文学者やアマチュアの天文観測家らを集結した観測チームを組織中だ。この現象は、アメリカの現象よりも対象星が微光(約12等)でさらに難しい観測となるが、現在約15サイトで観測予定で、ファエトンを違う角度から見た断面を取得する計画となっている。アメリカでの成功に続く、さらなる成果を期待しよう。
〈関連リンク〉
- 千葉工業大学 惑星探査研究センター:小惑星(3200)Phaethonによる恒星食の観測協力のお願い
- ファエトンによる恒星食の予報:
- DESTINY+:
- アストロアーツ:
- 天体写真ギャラリー:小惑星ファエトン(2017年)
- 【特集】2018年 ふたご座流星群
関連記事
- 2024/11/29 2024年12月8日 土星食/月と土星が大接近
- 2024/11/27 リュウグウの砂つぶに水の変遷史を示す塩の結晶を発見
- 2024/11/14 「COIAS」発見小惑星に「アオ」命名、15日に「命名祝賀会」配信
- 2024/10/08 二重小惑星探査機「ヘラ」、打ち上げ成功
- 2024/09/12 「にがり」成分からわかった、リュウグウ母天体の鉱物と水の歴史
- 2024/08/09 「はやぶさ2」が次に訪れる小惑星は細長いかも
- 2024/08/02 2024年8月10日 スピカ食
- 2024/07/18 2024年7月25日 土星食
- 2024/06/13 2024年6月20日 アンタレス食
- 2024/06/07 2024年6月14日 おとめ座β星ザビヤバの食
- 2024/05/10 2024年5月17日 しし座σ星の食
- 2024/04/24 2024年5月5日 火星食
- 2024/03/19 『恋する小惑星』を追体験!Webアプリ「COIAS」
- 2024/01/29 リュウグウに彗星の塵が衝突した痕跡を発見
- 2024/01/29 2024年2月5日 アンタレス食
- 2024/01/11 「プラネタリウムの父」バウアスフェルドの名を冠した小惑星観測キャンペーン
- 2023/12/25 タンパク質構成アミノ酸が一部の天体グループだけに豊富に存在する理由
- 2023/12/15 リュウグウの岩石試料が始原的な隕石より黒いわけ
- 2023/12/15 2023年12月22日 ベスタがオリオン座で衝
- 2023/12/13 「はやぶさ2♯」の目標天体2001 CC21命名キャンペーン