不思議な渦巻き模様が示す月の磁場

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月面に見られる独特の渦巻き模様は、強く磁気を帯びた溶岩に関連して作られたものらしいという研究成果が発表された。月で過去に起こった火山活動などを示す結果である。

【2018年9月13日 ラトガース大学

月面の暗い部分の所々には、くねくねと曲がった明るい雲に似た渦巻き模様が見られる。たとえば、嵐の大洋内に位置する「ライナー・ガンマ」(Reiner Gamma)は長さが約64kmあり、アマチュア天文家の間でもよく知られている模様だ。

ライナー・ガンマ
「ライナー・ガンマ」(撮影:actyamaさん)。画像クリックで天体写真ギャラリーのページ

このような模様が見られる場所のほとんどに、強力な局所的な磁場も存在している。明暗のパターンは、強い磁場によって太陽風の粒子の向きがそらされ、他の領域よりゆっくりと変色が進んだ結果できたものかもしれない。

「それが正しいとしても、では磁場の成因は何かということは長年の謎のままでした。謎を解くには、どんな地質学的な特徴が磁場を生み出すのか、なぜ磁気が強いのかを明らかにする必要がありました」(米・ラトガース大学 Sonia Tikooさん)。

米・カリフォルニア大学バークレー校のDouglas HemingwayさんとTikooさんは、渦巻き模様の複雑な幾何学的特徴や磁場の強さについてわかっている情報から、地質学的な磁石の数学的モデルを構築した。そして、一つ一つの渦巻きが、地下の浅いところに埋もれている幅の狭い磁気を帯びた物体の上に存在しているはずであることを明らかにした。

この物体の特徴は、過去の火山噴火の溶岩によって作られた細長い構造である「溶岩チューブ」や、マグマが地殻に貫入して板状に固まった「岩脈群」と一致するものだ。

では、溶岩チューブや岩脈群はどのようにして強い磁気を帯びるようになったのだろうか。その答えは、月に火山活動が見られた30億年以上も前に月特有の環境で起こった作用にあるようだ。

過去の実験から、多くの月の岩石が無酸素の環境で摂氏600度以上の高温になると強い磁気を帯びることがわかっている。これは、ある種の鉱物は高温によって熱分解して金属鉄を放出するためだ。その近くに強い磁場があると、発生した鉄は磁場の方向に沿って磁気を帯びることになる。地球では鉄は酸素と結合するため、そのようなことは普通は起こらない。また、現在の月には全球的な磁場が存在しないため、やはり鉄が磁気を帯びることはない。

Tikooさんは昨年の研究で、月の全球的な磁場はこれまで考えられてたよりも10億~25億年ほども長く存在していたことを発見している。これはおそらく溶岩チューブや岩脈群の形成と同時に起こったもので、鉄を多く含んだ構造が冷えながら強く磁気を帯びていったのかもしれない。「異常に磁場が強い月の特徴を説明するという観点で、こうした作用について誰も考えたことがありませんでしたが、これこそが、月面の渦巻き模様に潜む磁気を理解するというパズルを完成させる最後のピースだったのです」(Tikooさん)。

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