月で数十億年継続した火山活動の起源をシミュレーションで解明
【2025年5月2日 愛媛大学】
月の「海」と呼ばれる黒い部分は、過去に月面で起こっていた活発な火山活動によって表面に噴出したマグマの名残だ。とくに私たちが「もちをつくうさぎ」の模様に見立てている部分の大半は「プロセラルム盆地」と呼ばれ、トリウムなどの放射性熱源元素が濃集する特異な領域であることが知られている。
月周回衛星「かぐや」の探査データから作られた月面図。黄色の破線内がプロセラルム盆地(提供:USGS Astrogeology Science Center)
この領域の大部分における火山活動は、約40億年前から活発になり、約35億年前までにピークを迎え、その後も約10億年前までの数十億年間にわたって継続したことが、観測から明らかになっている。しかし、小さく内部が冷えやすい天体である月で、なぜこれほど長期的に火山活動が続いたのかという理由はわかっていなかった。
東京大学の于賢洋さんたちの研究チームは、マグマの生成と移動の効果といった火成活動をマントル対流モデルに反映させた2次元モデルを用いて、月内部の進化をシミュレーションを実施した。その結果、30億年にも及ぶ長期的な火山活動が再現され、マグマの上昇メカニズムが時代とともに移り変わることや、局所的に長期的な火山活動が維持される条件が明らかになった。
このモデルによると、まず初期の火山活動は、月の深部に存在した放射性元素がマントル内部を温めることで生成されたマグマが、自ら上昇することで引き起こされる(下図[1])。この上昇によって、マグマに濃縮する性質を持つ高密度物質が深部からマントル上部へ運ばれ、マントル上部に高密度物質が濃集した領域が形成される(下図[2]の(d)の矢印)。その後、高密度の塊は再び深部へ沈み込み(下図[3]の(d)の矢印)、それに伴って生じる上向きの対向流がマグマ上昇を駆動して(下図[4]の(b)の矢印)、比較的新しい時代の火山活動が引き起こされる、という流れだ。
シミュレーションによる月内部の変化(提供:愛媛大学リリース、以下同)
また、とくに初期条件としてマントル上部に放射性元素濃集域を設定した場合、その地域下で局所的に火山活動が顕著に見られることも明らかになった。
シミュレーションで示された、地表面から深さ100km地点のマグマの流入(火山活動の指標)。[1]~[4]は上図と対応
今回の研究により、月の内部は長期的に流動的な環境であった可能性が示された。月と同様に小さいながら活発な火山活動が存在していた過去を持つ水星などの内部進化の理解にも寄与する成果である。また、地殻直下に放射性元素に富んだ領域が存在し、それが月全体にわたる内部の不均質性と密接に関係しているらしいことも示された。今後の月探査における科学目標の設定にも一定の影響を与えるものとなるだろう。
〈参照〉
- 愛媛大学:月の火山活動の起源をシミュレーションによって解明
- Geophysical Research Letters:Long-Lasting Volcanism of the Moon Aided by the Switch in Dominant Mechanisms of Magma Ascent: Role of Localized Radioactive Enrichment in a Numerical Model of Magmatism and Mantle Convection 論文
〈関連リンク〉
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