すばる望遠鏡で明かす木星トロヤ群小惑星の色の謎
【2026年4月20日 すばる望遠鏡】
木星の公転軌道上には、木星の進行方向前方と後方(それぞれ、太陽・木星と正三角形を作るような位置)に、力学的に安定していて小惑星が集まっている領域がある。ここに分布する小惑星は「(木星の)トロヤ群小惑星」と呼ばれ、太陽系初期の情報を残すと考えられている。

木星トロヤ群小惑星の想像図(提供:NASA/JPL-Caltech)
トロヤ群小惑星のうちサイズの大きなものは、赤っぽい色をした「D型」と、それほど赤くない「P型/C型」の2つのタイプに分けられている。小惑星の色は天体の組成や、太陽からどのくらいの距離で形成されたかを反映していると考えられている。太陽に近い場所と遠い場所では温度が異なり、材料となる物質の種類が変わるためだ。
つまり、2つの色があるということは別々の場所で作られた小惑星が同居しているということを意味している。異なる場所で生まれた可能性のある2種類の小惑星が同じ領域に存在している理由ははっきりとわかっていないが、太陽系初期に巨大惑星の軌道が大きく変化した影響で、遠方にあった小天体が木星付近に運ばれた可能性が指摘されている。
産業医科大学/千葉工業大学の吉田二美さんたちの研究チームは、サイズの「小さな」トロヤ群小惑星に着目し、トロヤ群小惑星の色の謎に関する研究を行った。大きな小惑星の表面は長い間宇宙環境にさらされて性質が変化している可能性があるが、大きな小惑星が壊れてできた破片と考えられる小さな小惑星の表面は、母天体内部の物質組成を反映していることが期待できる。吉田さんたちは、小さな小惑星の色がもとの天体の組成について知る手がかりになると考えたわけだ。
吉田さんたちは2017年5月に、すばる望遠鏡の初代の広視野カメラSuprime-Camを用いて測光観測を行い、木星の前方領域に120個のトロヤ群小惑星を検出した。

Suprime-Camで観測された領域(さそり座~へびつかい座付近)。各長方形はSuprime-Camの視野に対応。黄色の線は黄緯(0度が黄道)を表す。背景画像は「Pan-STARRS」による(提供:F. Yoshida et al.、以下同)
このうち直径数km規模の小さな天体の色と大きさの関係を調べたところ、大きなトロヤ群小惑星のような明確な色の区別はなく、色は連続的に分布していることがわかった。また、全体としては赤くない天体が多く、赤い天体と赤くない天体の間でサイズ分布にほとんど差が見られないことも明らかになった。「赤いもの」と「赤くないもの」が同じように壊れているというこの結果は、「赤い小惑星が壊れて赤くない破片になる」という従来の単純な考え方が十分ではないことを示している。

(左)観測されたトロヤ群小惑星候補天体の例。(上段)移動の様子、(下段)拡大像。(右)研究対象のトロヤ群小惑星のサイズ分布。横軸は明るさで、13等は直径約16km、17等は直径約3kmに相当する。縦軸はある明るさ以下の小惑星が全体に占める割合を表し、赤い小惑星(□)と赤くない小惑星(○)の間でサイズ分布に違いが見られないことがわかる。画像クリックで表示拡大
来年8月にはNASAの木星トロヤ群小惑星探査機「ルーシー」が木星系に到着予定だ。食惑星の直接観測によって得られる表面組成などの詳細なデータと、今回の研究成果や理論モデルとの組み合わにより、トロヤ群小惑星の起源や進化の理解が大きく進むことが期待される。
〈参照〉
- すばる望遠鏡:すばる望遠鏡が明かす木星トロヤ群小惑星の「色の謎」- Suprime-Cam 最後の観測がもたらした新発見 -
- The Astromical Journal:Color and Size Distributions of Small Jupiter Trojans 論文
〈関連リンク〉
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