太陽フレアが生命の材料を作った可能性

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生まれたばかりの太陽は暗かったが、激しく活動して高エネルギー粒子をばらまいていた。その一部が地球に飛来し、大気に作用して生命の材料となるアミノ酸を生成していた可能性が、実験で示唆された。

【2023年5月10日 横浜国立大学

地球の生命はアミノ酸を基本的な材料として誕生したが、そのアミノ酸がどこから来たのかについては議論が続いている。

1950年代には、地上での放電(雷)や紫外線によって大気中のメタンやアンモニアから有機物が生成されたという説が脚光を浴びた。しかし、その後の研究で、初期の地球大気は二酸化炭素や窒素が主成分であり、放電などで効率的に有機物を作れる環境ではないことがわかった。現在では、隕石などによって有機物が地球に飛来したという仮説が注目されている。

そんな中、有機物の多くが地球で合成されたという可能性が再浮上した。きっかけは、太陽に似た恒星の観測だ。生まれて間もない時期の恒星は、表面での激しい活動(フレア)により大量の高エネルギー粒子を放出している。若い太陽も同じくらい活発だったとすれば、地球に降り注いだ高エネルギー粒子によって大気から有機物が生成された可能性がある。

若い太陽の想像図
若かったころの太陽で発生したフレアの想像図(提供:NASA's Goddard Space Flight Center/Genna Duberstein、以下同)

横浜国立大学の小林憲正さんたちの研究チームは、東京工業大学のイオン加速器を用いて、初期の地球環境を模した実験を行った。大気を模したガスとしては二酸化炭素と窒素を主体に、水蒸気と少量のメタンを加えたものを用いている。

このガスに対して放電や紫外線照射を行っても、アミノ酸はほとんど作られなかった。一方、加速器から陽子線を照射すると、メタンが二酸化炭素の1%しか存在しなくても、アミノ酸や多様なカルボン酸が生成された。

今回の研究は、初期地球上で太陽からの高エネルギー粒子で生じたアミノ酸は、隕石などがもたらしたアミノ酸よりもはるかに多かったことを示唆している。大きな太陽フレアは現代の文明にとっては脅威となり得るが、初期の地球においては生命の誕生を促したのかもしれない。

太陽フレアが初期地球に与えた影響は、他にも考えられている。若い太陽は現在よりも暗かったと予想されるにもかかわらず初期地球は凍結していなかったという「暗い太陽のパラドックス」も、太陽からの高エネルギー粒子で一酸化二窒素などの温暖化ガスが生成されたとすれば、解消できるかもしれない。小林さんたちはこのような可能性も実験で検証したいとしていう。

「暗い太陽のパラドックス」の紹介動画「The Faint Young Star Paradox: Solar Storms May Have Been Key to Life on Earth」。約40億年前の若い太陽は、現在の4分の3程度の明るさしかなかったが活発に活動していたようだ。巨大なフレアが発生し、地球を暖めるのに必要な重要なエネルギーが供給されていた可能性がある

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