「悪魔の星」アルゴルの巨大フレアとその食を観測
【2025年12月23日 京都大学】
太陽をはじめとする恒星では突発的に大規模な爆発現象が発生する。このようなフレア現象のメカニズムは太陽の研究を通じて理解が進んでいるが、なかには太陽フレアの規模をはるかに超えるスーパーフレアを起こす恒星も存在し、これが太陽と同じ原理で発生するのかどうかはよくわかっていない。
ペルセウス座にある有名な食変光星のアルゴルでも、過去にスーパーフレアが観測されたことがある。アラビア語の「悪魔」に由来するアルゴルは、明るい主星のアルゴルAと暗い伴星アルゴルBからなり、地球から見て2つの星が重なったり横並びになったりすることで明るさが周期的に変化して見える連星系だ。
アルゴルのスーパーフレアはX線観測中に偶然とらえられ、伴星アルゴルBが奥、主星アルゴルAが手前にあるタイミングでフレア食(フレアの減光)が確認された。このことからスーパーフレアがアルゴルBで発生したことがわかり、その大きさや発生した場所などが示された。しかし、フレアは突発現象であるため、観測例を増やすことができていなかった。
京都大学の中山和哉さんたちの研究チームは、国際宇宙ステーションに搭載されている日本の全天X線監視装置「MAXI」とNASAのX線望遠鏡「NICER」による、突発天体の即応連携観測「MANGA(MAXI And NICER Ground Alert)」に注目した。広い視野によって突然発生するスーパーフレアを効率よく検出できるMAXIと、視野は狭いがフレア食を検出できる感度を持つNICERの連携によって、アルゴルのスーパーフレアやフレア食をできるだけ早く観測することが目的だ。

MAXIとNICERによるアルゴルの連携観測(提供:ひっぐすたん)
2018年7月4日、MAXIによって、過去に観測された最大の太陽フレアの約10万倍のエネルギーをもつスーパーフレアがアルゴルでとらえられた。その規模や継続時間、フレア食の観測可能性などが検討され、NICERの眼をアルゴルへ向けたところ、期待通りにフレア食がとらえられた。さらに、観測データの解析やシミュレーションから、フレアの大きさが約190万kmと過去の観測を超える巨大なサイズだったことや、アルゴルBの中緯度から高緯度の位置で今回のスーパーフレアが発生していたことが特定された。

(上)可視光線で見たアルゴルの減光の様子。アルゴルBが手前にあるときが一番暗く(主極小)、奥にある時も少し暗く(副極小)なる。(中)MAXIとNICERで得られたX線スーパーフレアとフレア食の様子。可視光線の減光とやや異なるタイミングでX線の減光がみられる。(下)フレア食の模式図。中段の赤帯部分に対応(提供:京都大学リリース)
スーパーフレアの発生は周囲の惑星での生命の発生や居住環境の議論においても重要な情報である。X線天文衛星XRISMなどとも連携して、研究がいっそう進んでいくことが期待される。
〈参照〉
- 京都大学:MAXI-NICER連携で捉えた悪魔のまばたき―アルゴルで発生した巨大恒星フレア食の観測に成功―
- The Astrophysical Journal:Eclipsing Stellar Flare on the Demon Star Algol Binary System Observed during the MAXI-NICER Follow-up Campaign in 2018 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2025/11/05 若い惑星環境を揺るがす巨大フレアの多温度・多速度噴出
- 2025/10/20 秋の食変光星、アルゴルとカシオペヤ座RZを観測しよう
- 2025/09/25 高精度・高信頼度で太陽フレアを予測するAIを開発
- 2025/01/07 太陽とよく似た性質の星でもスーパーフレアが100年に1回起こる
- 2024/11/13 秋の食変光星、アルゴルとカシオペヤ座RZを観測しよう
- 2023/10/11 秋の食変光星、アルゴルとカシオペヤ座RZが見ごろ
- 2023/06/29 太陽の熱対流が磁場をねじり、フレアを起こす
- 2023/05/10 太陽フレアが生命の材料を作った可能性
- 2023/05/08 恒星を飛び出す超高速プロミネンス
- 2022/11/22 実験室でミニチュア太陽フレアを生成
- 2022/10/11 秋の食変光星、アルゴルとカシオペヤ座RZが見ごろ
- 2022/10/07 巨大ブラックホールのフレアが電波ジェットを作り出す
- 2022/08/12 トモエゴゼンが赤色矮星の短時間フレアを多数検出
- 2021/12/15 若い恒星のスーパーフレアに伴う物質の噴出を初検出
- 2021/05/10 プロキシマケンタウリの巨大フレアを多波長で観測
- 2021/02/05 太陽嵐の予測で世界最高水準を達成
- 2020/08/06 太陽フレアを予測する画期的な計算方法
- 2020/07/21 太陽探査機ソーラーオービター、最初の成果を公開
- 2020/07/17 せいめい望遠鏡で赤色矮星のスーパーフレアを検出
- 2019/07/19 フレアが惑星に及ぼす影響を定量的に評価












![[アストロアーツ かけはしプロジェクト:つなげよう日本 子供達の未来を守るために]](https://www.astroarts.co.jp/official/kakehashi/image/kakehashi_s.jpg)