高精度・高信頼度で太陽フレアを予測するAIを開発

このエントリーをはてなブックマークに追加
24時間以内に発生する太陽フレアを、過去の太陽観測画像を基にして予測するAIが開発された。正確性と信頼度の両面で人間の専門家を超えるという。

【2025年9月25日 慶応義塾大学

太陽は現在、最も活動が活発な「極大期」を迎えている。極大期は太陽表面で起こる爆発現象「太陽フレア」の発生回数が多く、通信障害や人工衛星の故障、大規模停電などのリスクが世界的に高まる。

X5.8クラスの太陽フレア
NASAの太陽観測衛星「SDO」が2024年5月10日に観測したX5.8クラスの太陽フレア(提供:NASA/SDO

こうしたリスクを回避したり低減したりするため、フレア発生など太陽活動を予測する「宇宙天気予報」が重要視されている。しかし、太陽フレア発生のメカニズムは複雑で、熟練の専門家による予測精度も限界がある。AIを用いた予測もなされているが、主に黒点の形や磁場の強さといった特定の特徴の分析に加え、太陽全体の画像に含まれる情報の一部を利用するため、予測精度が伸び悩んでいた。

慶応義塾大学の長嶋隼矢さんと杉浦孔明さんは、約8年分の太陽観測画像を学習させた、より高い予測精度のAIモデル「Deep SpaceWeather Model:深層宇宙天気予報モデル」を開発し、予測結果の公開を開始した。

「Deep SpaceWeather Model」による太陽フレア予測の全体像
「Deep SpaceWeather Model」による太陽フレア予測の全体像。長期間の観測画像の情報と直近の画像をもとに、24時間後までの太陽フレアの規模を予測する(提供:慶応義塾大学リリース(S. Nagashima et al.))

このモデルの最大の特徴は、太陽の自転周期に匹敵する長期間の観測画像をそのまま扱う計算上の困難を、独自の圧縮技術により克服した点にある。開発されたAIは自転周期よりも長い28日間(過去672時間)にわたる太陽観測画像の長系列データから、独自の深層状態空間モデルを用いてフレアを予測する。従来必要だった専門家の知見に基づく計算が省かれ、画像データのみから予測を行うことができるようになった。

代表的な先行研究と比較すると、予測の正確性を示す主要な指標で21%、信頼性を示す指標で31%の向上がみられ、性能が大幅に上回った。また、人間の専門家と比較しても、正確性で10%、信頼性で17%上回り、専門家を超える性能が実証された。今後は継続的な太陽観測データの収集とともにAIの予測性能改善に努めるほか、他分野への展開も進める予定だという。

関連記事