宇宙ニュートリノ多重事象の可視光追観測で爆発的天体仮説に強い制限

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南極点で実施されているIceCube実験が検出したニュートリノ多重事象に対し、初めて同時刻・同方向の広視野可視光線観測データが解析された。事象の起源となり得る爆発的天体の明るさなどに強い制限を与える結果が得られている。

【2025年10月30日 千葉工業大学 天文学研究センター

宇宙を飛び交う陽子やニュートリノなど様々な粒子のなかには、極めて高いエネルギーを持つものがある。そのエネルギー供給源としては超新星爆発や、銀河中心ブラックホールの強い重力による潮汐力で星が引き裂かれる潮汐破壊現象などが考えられているが、はっきりとはわかってない。

高エネルギー粒子のうちニュートリノは、宇宙空間の磁場の影響などを受けずに地球に届く。この特徴のおかげで、高エネルギーニュートリノの到達時刻や飛来方向は粒子の起源を探るうえで大きな鍵となる。同じ方向を電磁波や重力波でとらえる「マルチメッセンジャー観測」ができれば、高エネルギー粒子の供給源が見つかると期待される。

しかし、南極点で行われているニュートリノ観測実験「IceCube実験」で検出された高エネルギーニュートリノに対して、これまでに供給源として同定された天体は、2017年の事象に対するブレーザー「TXS 0506+056」など2例しかない。

マルチメッセンジャー観測のイメージイラスト
2017年の宇宙ニュートリノ事象(IceCube-170922A)の起源天体を同定したマルチメッセンジャー観測のイメージイラスト。スペイン・カナリア諸島ラパルマ島の大気チェレンコフ望遠鏡「MAGIC」、NASAのガンマ線天文衛星「フェルミ」、IceCube実験が観測を実施した(提供:IceCube Collaboration/Google Earth: PGC/NASA U.S. Geological Survy Data SIO, NOAA, U.S. Navy, NGA, GEBCO Landsat/Copernicus

東北大学の敏蔭星治さんたちの研究チームは、2020年6月にうお座の方向から3つのニュートリノが飛来した「多重事象」に着目し、可視光線の観測データを用いた起源天体の探査を行った。IceCubeで多重事象として検出される事象の起源天体は、実験の感度を考慮すると、ニュートリノで明るく、比較的近距離に存在するものに限られる。そのため、起源天体の探査に大型望遠鏡は不要で、小口径の望遠鏡でも可能になる。また、到来方向で観測される無関係な遠方天体の数を大幅に減らすこともできる。

敏蔭さんたちは、米・パロマー天文台の突発天体掃索プロジェクト「Zwicky Transient Facility(ZTF)」で取得された、多重事象の同時刻・同方向における可視光線データを詳細に解析した。すると、このニュートリノ多重事象に対して、超新星爆発や潮汐破壊現象などは存在していなかったことがわかった。

高エネルギーニュートリノの到来方向
高エネルギーニュートリノの到来方向。右は可視光線望遠鏡により撮影された到来方向の拡大画像で、約0.5度四方(満月と同程度)、赤色の楕円はIceCube実験により決定された到来方向の1σ誤差領域を示す(提供:Zwicky Transient Facility、リリース元の画像を一部改変)

この結果に基づいて、高エネルギー粒子の供給源となり得る爆発的天体の明るさや、明るさが変化する時間スケールを評価したところ、候補天体とされてきた超新星爆発や潮汐破壊現象に対し、これまで行われてきた多数の追観測よりも強い制限を与える成果が得られた。

高エネルギー粒子の供給源となり得る天体への制限
高エネルギー粒子の供給源となり得る爆発的天体の明るさと、明るさが変化する時間スケールへの制限。(左)超高輝度超新星の場合、(右)潮汐破壊現象の場合。それぞれで、黄の枠内が天体の典型的な明るさ・明るさ変動の時間スケール、赤と青の部分が棄却された(制限が与えられた)領域を表す(提供:千葉工業大学天文学研究センター)

今回の研究は、爆発的天体が高エネルギー粒子のエネルギー供給源となり得るかを検証するうえで、ニュートリノ多重事象と可視光線観測とを組み合わせたマルチメッセンジャー観測が強力な手法となることを示した初の成果となる。本研究で確立した手法を活かした即時の追観測が実現されれば、高エネルギー粒子のエネルギー供給源の理解が大きく進むと期待される。

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