探査機の宇宙線センサーを利用して太陽プラズマの変動をとらえた

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探査機に搭載されたシステム監視用の宇宙線検出器を活用して、太陽の爆発現象で放出されたプラズマが伝わる様子を太陽系内の複数地点で観測することに成功した。

【2026年1月19日 東京大学大学院理学系研究科

太陽系は、太陽から吹く高エネルギーのプラズマ粒子(太陽風)に包まれている。太陽フレアなどの爆発現象で「コロナ質量放出(CME)」が起こると、大量のプラズマが惑星間空間に放出されて拡がる。この「惑星間空間コロナ質量放出物」(ICME)が地球に届くと、人工衛星や地上のインフラに大きな障害を引き起こす可能性があるため、ICMEが地球や火星軌道付近までどのように伝わるのかを理解することは非常に重要だ。

こうした太陽活動による宇宙環境の変動を「宇宙天気予報」という形で予測する研究も進んでおり、とくに予報の精度を上げるために、ICMEが惑星間空間を伝わるモデルを改良する必要性が増している。

CME
2013年4月、M6.5クラスのフレアに伴って発生したコロナ質量放出(CME)の例。NASA/ESAの太陽観測衛星「SOHO」が撮影(提供:ESA & NASA/SOHO/GSFC

ICMEの変化を追跡するのに役立つのが、「フォーブッシュ減少(Forbush Decrease)」という現象だ。フォーブッシュ減少は、ふだん太陽系外から降りそそいでいる銀河宇宙線がICMEによって一時的に妨げられて数が減るという現象で、簡単な粒子観測装置でも検出できる。

東京大学の木下岳さんたちの研究チームは、欧州と日本の水星探査機「ベピコロンボ」に搭載されている「太陽粒子モニター(SPM)」という観測装置に着目した。SPMは探査機を損傷させかねない高エネルギー放射線の量を監視するもので、本来は科学観測のための装置ではないが、多くの探査機に同じような装置が搭載されていて、大量のデータが蓄積されている。

木下さんたちは以前の研究で、宇宙放射線のシミュレーション結果を利用してSPMのデータを較正し、SPMのデータからフォーブッシュ減少の観測データを得る手法を開発していた。今回、この方法の有効性を確かめるために、2022年3月に発生したICMEをベピコロンボとヨーロッパ宇宙機関の太陽探査機「ソーラーオービター」、さらに地球付近という3地点で多点観測したデータを解析した。地球付近でのフォーブッシュ減少のデータとしては、月を周回しているNASAの「ルナー・リコナサンス・オービター(LRO)」に搭載されている宇宙線検出器のデータが使われ、磁場や太陽風のデータは太陽−地球系のラグランジュ点L1にいるNASAの太陽風探査機「Wind」のものが使われた。

多点観測の概念図
多点観測の概念図(提供:東京大学リリース、以下同)

このICMEが発生したとき、ソーラーオービターと地球は太陽から見てほぼ一直線上にあった。またベピコロンボは、ソーラーオービターとほぼ同じ距離で、黄経が約49度違う位置にいた。そのおかげで、太陽から見て動径と方位角の方向にICMEがどのような構造で広がったかを比べるのに好都合な位置関係になっていた。

これらのデータから、木下さんたちはフォーブッシュ減少の形状・深さ・傾きなどが3地点で変化する様子を詳細にとらえることに成功し、フォーブッシュ減少の変化がICMEの変化とどのように対応しているのかを多角的に考察することができた。

今回の結果から、もともと科学観測用途ではない簡易的な装置でもICMEの進化に迫れることが実証された。今後、他の様々な探査機でもICMEのデータが得られ、宇宙天気予報の精度向上に役立つことを木下さんたちは期待している。

ベピコロンボが観測したICME
ベピコロンボが観測したICMEのデータ。(a)が宇宙線の量を表す。青色の時間帯に、太陽からのICMEが通過したことで宇宙線が一時的に減る「フォーブッシュ減少(FD)」がみられた。(b)~(f)は宇宙線以外のデータ。画像クリックで表示拡大

「ソーラーオービター」と地球近傍での観測値
「ソーラーオービター」(黒)と地球近傍の探査機(LROなど、灰色)で観測されたフォーブッシュ減少と磁場の比較

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