2021年 天文宇宙ゆく年くる年

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民間宇宙旅行フライトや「ほぼ皆既」月食、火星探査など、2021年も様々なニュースが世間を賑わした。この一年を振り返り、2022年の注目天文現象もチェックしよう。

【2021年12月28日 アストロアーツ】

※ 販売中の「星ナビ」1月号「星のゆく年くる年」では、2021年に話題になった天文・宇宙のトピックと2022年の注目天文現象を写真つきで詳しく紹介しています。

「星ナビ」2022年1月号

1~3月

昨年12月6日の「はやぶさ2」地球帰還に引き続き、2021年は同機が持ち帰った小惑星リュウグウのサンプル分析に関する話題が一年を通じて報じられた。リュウグウで採取された試料は計約5.4gで、初期分析が行われた後、大きめの粒子と粉体に分けて今後の研究用にカタログ記載された。試料の一部は国内NASAの分析チームに引き渡された。

試料
(上)「はやぶさ2」の第1回タッチダウンで採取されたA室の試料。(下)第2回タッチダウンで採取されたC室の試料。大きめの粒子を個別に拾い上げた残りを観察用容器に移したもの。右下の数字は各容器内の試料の重量。容器の内径は21mm。画像クリックで表示拡大(提供:JAXA)

2月には昨年打ち上げられた各国の火星探査機が相次いで火星に到着した。2月10日にはUAEの「HOPE」中国の「天問1号」が火星周回軌道に入り、19日にはNASAの「パーサビアランス」が火星表面に着陸した。

パーサビアランスの下降からタッチダウンまでをとらえた動画「Perseverance Rover’s Descent and Touchdown on Mars (Official NASA Video)」(提供:NASA/JPL-Caltech)

2月10日、すばる望遠鏡によって太陽系で最も遠い天体「2018 AG(_37)」が発見されたことが発表された。この天体には「ファーファーアウト」という愛称が付けられ、発見時の距離は太陽から132au(約198億km)で、遠日点は約174au(約260億km)、公転周期は約800年と推定されている。

ファーファーアウトの発見画像
すばる望遠鏡によるファーファーアウト(2018 AG37)の発見画像。2018年1月15日と1月16日に取得された2枚の画像を合わせることで天体の動きが見てとれる(提供:Scott S. Sheppard)

4~6月

4月19日、NASAの火星探査機「パーサビアランス」に搭載されていた小型ヘリコプター「インジェニュイティ」が火星表面から離陸し、39秒間にわたる飛行に成功した。地球外の天体での動力飛行は史上初だ。

インジェニュイティの影
インジェニュイティの影(提供:NASA/JPL-Caltech)

4月23日、NASAの「Crew-2」ミッションで日本の星出彰彦宇宙飛行士ら4名のクルーが国際宇宙ステーション (ISS) に向かった。星出さんは11月9日までISSに長期滞在し、日本人として史上2人目のISS船長を務めた。また、「Crew-1」ミッションで昨年11月からISSに長期滞在していた野口聡一宇宙飛行士ら4名のクルーは、星出さんらと交代して5月2日に地球に帰還した。

ISS船長就任セレモニーを行う星出さんら11名のクルー
ISS船内で、前任の船長を務めたShannon Walkerさん(右端)から船長就任の証である「鍵」を受け取る星出さん(左端)。右から2番目が野口さん(提供:NASA TV)

4月29日、中国初のモジュール型宇宙ステーションの中核モジュールとなる「天和」が打ち上げられた。6月と10月には宇宙船「神舟12号」「同13号」が天和にドッキングしてそれぞれ3名の宇宙飛行士が長期滞在を行い、王亜平宇宙飛行士が中国初となる女性飛行士の船外活動に成功している。

5月15日、中国の火星探査機「天問1号」から着陸機が分離され、火星表面への着陸に成功した。着陸機からはローバー「祝融」が火星表面に降下し、移動探査を行っている。

祝融の想像図
火星に降り立つ祝融の想像図(提供:新華社、CNSA

5月26日には2018年7月以来3年ぶり(日本で見られるものとして)となる皆既月食が起こった。あいにく天気に恵まれない地域が多かったものの、東北・北海道と沖縄では赤く染まる満月を見ることができた。

皆既月食
5月26日皆既月食の地球の影(撮影:seagull_Mさん)。画像クリックで天体写真ギャラリーのページ

6月29日、米欧の重力波望遠鏡「LIGO」と「Virgo」によって、史上初となる中性子星とブラックホールの合体で発生した重力波が2020年1月に2件検出されたことが発表された。現在、LIGO・Virgoと日本の「KAGRA」による重力波観測はコロナ禍により中断しているが、2022年12月に次の観測を開始することがアナウンスされている。

4月から8月にかけて、6年ごとに起こる木星のガリレオ衛星の相互現象が見られた。衛星同士が互いに隠されたり影に入ったりする現象で、今年は条件のよい相互現象が7回観測された。

7~9月

7月には民間企業による宇宙旅行フライトが相次いで行われた。7月11日、ヴァージンギャラクティック社の宇宙船「VSSユニティ」が乗客6名を乗せて高度86kmまで到達するサブオービタル飛行(弾道飛行)に成功した。7月20日にはブルーオリジン社の宇宙船「ニューシェパード」が4名の乗客を乗せて高度107kmに到達した。さらに9月16日には、スペースX社が「インスピレーション4」ミッションで、「クルードラゴン」宇宙船に4名の乗客を乗せ、約3日間にわたる地球周回飛行を行った。

「ニューシェパード」の打ち上げ
「ニューシェパード」の打ち上げ(提供:ブルーオリジンのライブ中継動画「Replay - New Shepard First Human Flight」より)

7月22日、静岡県の西村栄男さんがぎょしゃ座で10.7等の彗星を発見し、西村彗星(C/2021 O1)と命名された。西村さんによる彗星発見は2個目となった。

野口さん撮影の西村彗星
西村彗星(撮影:野口敏秀さん)。7月24日3時35分ごろ撮影。画像クリックで天体写真ギャラリーのページ

西村さん
西村さんが指差す新彗星の発見方向。粟ヶ岳の上、高度10°で発見(提供:星ナビ編集部/谷川正夫)

8月9日、へびつかい座RS星が15年ぶりに増光し、11等から4.8等まで明るくなった。過去に6回の新星爆発を起こしている反復新星だ。

9月30日、世界21か国が運用するチリのアルマ望遠鏡が初期観測から10年を迎えた。16基のパラボラアンテナから始まったアルマのシステムは現在では66基のアンテナを擁するシステムになっている。10周年を記念して各アンテナに付ける名前が公募され、日本由来の名前も4個選定された。

モリタアレイのアンテナたち
アルマ望遠鏡のアンテナたち(© X-CAM / ALMA (ESO/NAOJ/NRAO))

10~12月

10月2日、JAXAと欧州宇宙機関(ESA)の水星探査機「ベピコロンボ」が初めての水星スイングバイを行い、水星表面から199kmの距離を通過した。これまでに地球で1回、金星で2回のスイングバイを行っており、今後さらに5回の水星スイングバイを行って2025年に水星周回軌道に入る予定だ。

水星
(1枚目)ベピコロンボのモニターカメラ2が水星最接近の10分後に2418kmの距離から撮影した水星。「シートゥ平原(Sihtu Planitia)」の方向が写っており、「カルビーノ・クレーター(Calvino Crater)」「ルダキ平野(Rudaki Plains)」「レルモントフ・クレーター(Lermontov crater)」が見える。クリックで表示拡大(提供:ESA/BepiColombo/MTM, CC 3.0 IGO)

10月16日、NASAの小惑星探査機「ルーシー」が打ち上げられた。ルーシーは2025年から2033年まで、メインベルト小惑星と木星のトロヤ群小惑星を計6個探査する予定になっている。

11月8日、中国・四国地方より東の地域で昼間の金星が月に隠される金星食が見られた。夕方には三日月に寄り添う金星の姿が楽しめた。

金星食
金星食(撮影:Siriusさん)。画像クリックで天体写真ギャラリーのページ

11月19日、今年2回目の月食が全国で見られた。月の約97%が地球の影に入る、ほぼ皆既といってよい部分月食となった。

部分月食
岐阜城と満月(部分月食)2021/11/19(撮影:やまっちさん)。画像クリックで天体写真ギャラリーのページ

11月、2021年に最も明るくなると予想されていたレナード彗星(C/2021 A1)が観測の好機を迎え、全国で観測された。当初はピークで5~6等の明るさと予想されていたが、複数回のバーストを起こし、3等台で観測された。12月12日ごろまでは明け方の東の空で見ることができ、12月16日ごろからは夕方の南西の空に移った。

レナード彗星
2021年12月24日のレナード彗星(撮影:米戸実さん)。画像クリックで天体写真ギャラリーのページ

11月24日、NASAの惑星防衛実験探査機「ダート」が打ち上げられた。地球に衝突する可能性のある小天体に人工物を衝突させて軌道を変更させる技術などを検証するミッションで、2022年秋に小惑星「(65803) ディディモス」への衝突実験を行う。

12月8日、日本の実業家、前澤友作さんと平野陽三さんを乗せたソユーズ宇宙船が打ち上げられ、日本の民間人として初のISS滞在を行って同20日に帰還した

地上との交信で笑顔を見せる前澤さんと平野さん
ISS入室直後に地上との交信で笑顔を見せる前澤さん(中央下)と平野さん(前澤さんの右上)

12月20日、JAXAが新たな宇宙飛行士の募集を開始した。ISSへの滞在業務に加えて、有人月着陸を目指す国際プロジェクト「アルテミス計画」にも携わる新たな世代の宇宙飛行士を選抜するもので、2022年3月4日まで応募を受け付け、2023年2月ごろに選抜結果が発表される。

12月25日、ハッブル宇宙望遠鏡の後継となるNASAのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が打ち上げられた。打ち上げ後、地球-太陽系のL2点に向けて約30日飛行し、サンシールドや副鏡・主鏡などの展開などを行う。本格観測は6か月後から始まる予定だ。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の打ち上げ
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の打ち上げ(提供:NASA James Webb Space Telescope Launch - Official NASA Broadcast

2021年の訃報

  • ロイ・A・タッカーさん(3月5日、70歳)
    新天体捜索家。地球接近小惑星 (99942) アポフィスをはじめ、700個以上の小惑星、2個の彗星を発見。
  • 河原郁夫さん(3月21日、91歳)
    プラネタリウム解説者。天文博物館五島プラネタリウム、神奈川県立青少年センター、かわさき宙と緑の科学館でプラネタリウム投影に従事。
  • マイケル・コリンズさん(4月28日、90歳)
    宇宙飛行士。アポロ11号に司令船パイロットとして搭乗。
  • スティーブン・ワインバーグさん(7月23日、88歳)
    理論物理学者。電弱統一理論で1979年にノーベル物理学賞を受賞。『The First Three Minutes』(『宇宙創成はじめの三分間』)など、一般向けの著作でも知られる。
  • 益川敏英さん(7月23日、81歳)
    理論物理学者。クォークが3世代6種類以上存在することを予言する「小林・益川理論」で小林誠さん・南部陽一郎さんとともに2008年のノーベル物理学賞を受賞。
  • キャロライン・シューメーカーさん(8月13日、92歳)
    天文学者。夫のユージン・シューメーカーさん(1928~1997)と共同で32個の彗星と500個以上の小惑星を発見。
  • アイバン・キングさん(8月31日、94歳)
    天文学者。計算天文学のパイオニアで球状星団などの力学モデルの構築で知られる。米国天文学会長などを務めた。
  • アントニー・ヒューイッシュさん(9月13日、97歳)
    電波天文学者。パルサーを発見した功績で1974年にノーベル物理学賞を受賞。
  • 上出洋介さん(12月9日、78歳)
    地球物理学者。オーロラや磁気圏・電離圏の研究で知られる。名古屋大学太陽地球環境研究所長、北海道りくべつ宇宙地球科学館・銀河の森天文台館長などを歴任。

改めてその業績を偲び、哀悼の意を表します。


2022年は明け方の惑星大集合や皆既月食中の天王星食、火星中接近に注目

2022年の春から初夏にかけては、明け方の東の空に惑星が集合する様子が見られる。6月には水星・金星・火星・木星・土星の5惑星が一列に並ぶ。ぜひ早起きして眺めたい。

11月8日の宵には皆既月食が全国で見られる。皆既は1時間半ほど続き、皆既の最中に5.6等の天王星が月に隠される天王星食も見られる。

12月1日には2年2か月ぶりに火星が地球と最接近する。今回の接近は距離が8145万kmで「中接近」といったところだ。

宇宙開発分野でも2022年は注目の話題が目白押しだ。JAXAの新たなX線観測衛星「XRISM」と月着陸実験機「SLIM」が相乗りで2022年度に打ち上げられる予定となっている。また、H-IIAロケットの後継となる「H3」もついに打ち上げられる予定だ。ISSヘの物資補給船「こうのとり(HTV)」の後継機である「HTV-X」も2022年度中に1号機がH3ロケットで打ち上げられることになっている。

6月にはESAが主導し日本も参加する木星氷衛星探査機「JUICE」が打ち上げられる。2029年に木星周回軌道に入り、カリスト・エウロパの接近観測をした後、2032年にガニメデを周回する軌道に入るという探査機だ。

NASAは「アルテミス計画」の初号機となる「アルテミス I」を2022年に打ち上げる。無人のオリオン宇宙船で月を周回後、地球に帰還するミッションだ。

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昨年から続くコロナ禍で星見遠征やイベント参加に制限もあった2021年だが、リモート参加やバーチャルでのイベントなど、新たな交流の形も定着しつつある。11月の「ほぼ皆既月食」やレナード彗星など、いくつもの天文現象が話題となった。来たる2022年も、たくさんの楽しいトピックが私たちを感動させてくれることを期待しよう。

アストロアーツの2021年

  • モバイルアプリ「星空ナビ」をリリース(iOS版1月、Android版5月)。端末を空にかざすと天体の名前や天文現象、ニュースなどが見られる、不思議がいっぱいの星空を楽しむためのアプリです。
  • 株式会社アストロアーツは6月24日で創立30周年を迎えました。今後ともご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。
  • 7月に「ステラLiteシリーズ」発売。天文シミュレーションソフトのステラナビゲータ、天体撮像ソフトのステラショット、天体画像処理ソフトのステライメージをそれぞれ使いやすい機能とお手にしやすい価格で提供します。