【訃報】電弱統一理論でノーベル賞、スティーブン・ワインバーグさん

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「電磁気力」と「弱い力」の統一理論を構築して1979年のノーベル物理学賞を受賞した、物理学者のスティーブン・ワインバーグさんが7月23日に死去した。享年88。

【2021年8月2日 テキサス大学オースティン校

スティーブン・ワインバーグ(Steven Weinberg)博士は1933年、米・ニューヨーク生まれ。コーネル大学を卒業し、プリンストン大学で博士号を取得した。コロンビア大学とカリフォルニア大学バークレー校で、場の量子論や対称性の自発的破れ、パイ中間子の散乱理論など、素粒子物理学の様々な理論研究を行い、1969年にマサチューセッツ工科大学の教授に就任した。並行して、国防分析研究所や軍備管理軍縮局の顧問も務めた。

ワインバーグさん
スティーブン・ワインバーグさん(提供:College of Natural Sciences, The University of Texas at Austin)

1967年に発表した論文で、自然界に存在する4種類の相互作用のうち、光子が媒介する「電磁気力」と原子核のベータ崩壊などを引き起こす「弱い力」は高いエネルギーのもとでは一つの同じ相互作用に統一されるという「電弱統一理論」を提唱した。ワインバーグ博士はこのモデルで、弱い力を媒介する「W/Zボソン」という未知の粒子が存在し、ヒッグス機構という仕組みによって、この粒子が非常に大きな質量を持つことを予言した。W/Zボソンは1983年になって、加速器実験によってほぼ予言通りの質量を持つ粒子として発見された。ワインバーグ博士のこの論文は現在でも、高エネルギー物理学の分野で史上最も多く引用された論文の一つとなっている。この業績によって、同様の理論を提唱したシェルドン・グラショウ、アブドゥス・サラムとともに1979年のノーベル物理学賞を受賞した。

ワインバーグ博士たちが構築した電弱統一理論は、クォークに働く「強い力」の理論である「量子色力学」とともに、この宇宙に存在する物質粒子(クォークとレプトン)とゲージ粒子(相互作用を媒介する粒子)の性質を記述する「素粒子物理学の標準模型」の根幹をなす理論となっている。

ワインバーグ博士は1973年にハーバード大学のヒギンス物理学教授職に就任し、スミソニアン天体物理観測所の上級研究員も務めた。1982年から現在まではテキサス大学オースティン校の教授として、素粒子物理学にとどまらず、宇宙論の分野でも様々な業績を挙げた。

アインシュタイン方程式に現れる宇宙定数(宇宙膨張を加速させる効果を持つ量)の観測値が、理論的な必然性がないにもかかわらずなぜか宇宙の臨界密度に非常に近い値になっているという問題(宇宙定数問題)について、ワインバーグ博士は、宇宙定数が様々な違った莫大な数の宇宙が存在していて、人間はたまたま、宇宙膨張が収縮に転じず、急激に加速膨張することもない、ほどよい条件の宇宙に住んでいるのだという「人間原理」に基づく説明を1987年に提唱し、多元宇宙論などの研究に大きな影響を与えた。

ワインバーグ博士は素粒子論や宇宙論に関する書籍も多く出版した。『Gravitation and Cosmology』(1972年)は宇宙論分野の標準的な教科書の一つとして広く読まれた。2008年には新たな知見を追加した『Cosmology』(邦訳:『ワインバーグの宇宙論(上・下)』、日本評論社)が出版されている。『The First Three Minutes』(1977年、邦訳:『宇宙創成はじめの三分間』、筑摩書房)や 『Dreams of a Final Theory』(1993年、邦訳:『究極理論への夢』ダイヤモンド社)など、一般向けの著作も数多い。

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