すばる望遠鏡HSCが描き出した最初のダークマター地図

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すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラHSCを用いた観測データから、満月10個分ほどの天域に銀河団規模のダークマターが9つ集中して存在することが突き止められた。ダークマターの分布と時間変化を追い、宇宙膨張やそれを支配するダークエネルギーの謎に迫るための、観測装置と解析手法が確立したことを示す成果だ。

【2015年7月7日 すばる望遠鏡国立天文台

宇宙は加速膨張していることが知られており、その膨張はダークエネルギー(暗黒エネルギー)が支配していると考えられている。ダークエネルギーの強さや性質を調べるうえではダークマター(暗黒物質)の分布を広範囲にわたって調べることが重要だが、ダークマターは電磁波では観測できないため、従来の観測方法では全貌をとらえることはできない。

ダークマターの分布をとらえる方法の一つに「重力レンズ効果」を利用した観測がある。ダークマターの集まりがあると、背後にある遠方の銀河の像が重力レンズ効果で変形するので、変形量を調べることでダークマターの分布を調べることができるのだ。そのような観測のためには、遠方の暗い銀河を広い天域(天の領域)にわたって捜索し、形状を精密に計測する必要がある。

国立天文台、東京大学などの研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「HSC(Hyper Suprime-Cam、ハイパー・シュプリーム・カム)」の性能試験観測で取得されたデータを解析し、写し出された無数の微光銀河の形状を精密に測定することでダークマターの分布を調べた。HSCは8億7000万画素を持ち、満月9個分の広さの天域を一度に撮影できる世界最高性能の超広視野カメラで、空間分解能の高さや星像の歪みの小ささなども極めて優れている。

解析の結果、銀河団規模のダークマターの「かたまり」が9つ、2.3平方度(満月約12個分の広さ)の観測天域で検出された。別の望遠鏡で得られた画像からHSCで特定された「かたまり」に対応する銀河団も見つかり、HSCの観測データによる重力レンズ解析と、結果として得られる「ダークマター地図」の信頼性が確認されている。

HSCで観測された天体画像の一部と、解析で得られたダークマター分布図
HSCで観測された天体画像の一部(大きさ14分角×8.5分角)と、解析で得られたダークマター分布図(等高線)(提供:国立天文台/HSC Project、以下同)

また、今回の重力レンズ解析で検出された銀河団の数が、宇宙モデルの予測よりはるかに多いこともわかった。観測した天域がたまたまダークマターが密集した場所だったのか、あるいは過去においてダークエネルギーが期待されていたほど存在せず、緩やかな宇宙膨張のなかで天体形成が早く進行した結果なのかは、現時点でははっきりしていない。さらに詳しく調べるため、より広い天域での観測結果が待たれる。

観測されたダークマターの「かたまり」の密度を模式的に示した図と、現在推定されているダークエネルギーの量から推定した場合の理論予想
(右)観測されたダークマターの「かたまり」の密度を模式的に示した図、(左)現在推定されているダークエネルギーの量から推定した場合の理論予想

HSC開発責任者の宮崎聡さんは「今回の初期成果により、ダークエネルギーの謎に迫るために必要な観測装置と解析手法が確立したことが示されました。最終的に観測天域を1000平方度以上に広げ、ダークマターの分布とその時間変化から宇宙膨張の歴史を精密に計測する、という課題に取り組みます」と意気込みを語っている。

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