すばる望遠鏡の新装置、恒星周囲の円盤を高精細に観測

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すばる望遠鏡が光ファイバー「フォトニック・ランタン」を組み込んだ新装置で恒星を取り巻くガス円盤を観測し、単一の望遠鏡としては史上最も高精細な画像を取得した。天体の微細構造の研究に新たな道を開く成果だ。

【2025年11月7日 すばる望遠鏡

遠方天体の細部をどこまで観測できるかという分解能の限界(回折限界)は、望遠鏡の口径が大きいほど高くなる。口径8.2mと、単一鏡としては世界最大級の望遠鏡である米・ハワイのすばる望遠鏡に、特別設計された光ファイバー「フォトニック・ランタン」がこのたび搭載され、従来の限界を超える史上最も高精細な画像の再構成に成功した。

「フォトニック・ランタン」は、すばる望遠鏡の新しい分光装置「FIRST-PL」の一部として、極限補償光学装置「SCExAO」に組み込まれた。望遠鏡が集めた星の光を複数のチャンネルに分けるデバイスで、たとえるなら音楽の和音を個々の音に分けるようなものと言える。分けた光をコンピューターで再構成してきわめて鮮明な像を得ることができ、これまで以上に小さく遠い天体の観測が可能になる。また、FIRST-PLの分光ユニットで光を色ごとに分けるため、空間方向と波長方向の情報が同時に得られる。

FIRST-PLに取り付けられたフォトニック・ランタン
FIRST-PLに取り付けられたフォトニック・ランタン。SCExAOで大気の揺らぎが補正された光(黄色の線で表示)を空間的なパターンに応じて分離し、分光ユニットに導く(提供:Sébastien Vievard/University of Hawaiʻi at Manoa)

「この装置は、最先端のフォトニクス技術とハワイの地で培われた精密工学の融合で成り立っています。分野を超えた世界中の研究者による協力が、文字通り“宇宙の見え方”を変え得ることを示しています」(米・ハワイ大学/国立天文台ハワイ観測所 Sébastien Vievardさん)。

国際研究チームはFIRST-PLを用いて、約160光年の距離にあるこいぬ座の3等星ゴメイサ(こいぬ座β)を取り巻くガスの円盤を観測した。円盤は高速で回転しているため、私たちに近づくガスはドップラー効果により本来よりも青く見え(波長が短くなり)、遠ざかるガスは赤く見える。この色の変化(波長のずれ)を調べたところ、ガス円盤が従来の約5倍高い精度でマッピングされ、円盤が非対称な構造を持つことが明らかになった。

ゴメイサを取り巻くガス円盤
ゴメイサの周りを高速で回転するガス円盤の運動を示す画像。青は私たちに近づくガス、赤は遠ざかるガスを表す(提供:Yoo Jung Kim/UCLA)

「このような円盤の非対称性を検出するとは予想していませんでした。この特徴がどのようにして生じたのかを理論的に説明することが今後の課題です」(米・カリフォルニア大学ロサンゼルス校 Yoo Jung Kimさん)。

FIRST-PLの正式運用が始まれば、フォトニック・ランタンを基盤とする装置としては世界初の事例となり、すばる望遠鏡だけでなく天文学全体にとっても重要な節目となる。「フォトニクス技術が天文学にもたらす可能性は、まだ始まったばかりです。これからの展開が本当に楽しみです」(米・カリフォルニア工科大学 Nemanja Jovanovicさん)。

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