「ただいま!」「はやぶさ2」カプセルが地球に帰還

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小惑星リュウグウの試料を収めた探査機「はやぶさ2」のカプセルが豪州に着地、無事に回収された。「はやぶさ2」を地球から離脱させる運用も完了した。

【2020年12月7日 JAXAJAXA はやぶさ2プロジェクト

小惑星探査機「はやぶさ2」は12月4日に行われた地球帰還前の最後の軌道修正「TCM-4」によって、オーストラリアの「ウーメラ管理区域(WPA)」上空で大気圏に突入するコースを予定通り飛行していた。カプセルを分離する運用は5日11時06分(日本時間、以下同)から始まり、14時30分、地球から22万kmの位置で予定通りカプセルが分離された。

5日15時13分には、「はやぶさ2」本体を再突入コースから離脱させる軌道修正「TCM-5」が始まった。こちらも予定通りに、15時30分、16時00分、16時30分の3回に分けてスラスター4基を噴射し、地球を離れるのに必要な速度変更が完了した。1、2回目のスラスター噴射は30秒ずつ行われ、これによって必要な速度変更量が十分に得られたため、3回目は25秒間の噴射となった。

カプセル分離運用の様子はインターネットで生中継された。JAXA宇宙科学研究所がある神奈川県相模原市をはじめ、全国7市町でライブビューイングが行われ、数多くの人々が分離を見守った。

分離されたカプセルは地球に向かって落下し、12月6日2時28分、オーストラリア上空で大気圏に約12度の角度で突入した。現地は快晴で、2時29分ごろから約30秒間にわたって、カプセルが火球となり尾を引いて落下する様子がWPA北端の町、クーバーペディで撮影された。この様子もインターネットで配信された。

火球
WPA北端の町、クーバーペディで撮影されたカプセルの火球。画面右上から左下に向かって天の川に沿うように火球が通過した。中央左寄りに横倒しになった南十字星が写っている。画面上の赤い星雲はエータカリーナ星雲。火球は画面下のケンタウルス座α星とβ星の間で消えた。画像クリックで表示拡大(提供:JAXA)

火球
クーバーペディで撮影されたカプセルの火球。画面右から左へ火球が通過した。おうし座付近から発光が始まり、オリオン座を経て南天の天の川に沿って移動した様子がとらえられている。画像クリックで表示拡大(提供:JAXA)

2時32分には、WPAで待機しているカプセル回収班がカプセルからのビーコン電波を受信した。これによって、カプセルを熱から守るヒートシールドがカプセル本体から正常に分離し、パラシュートが開いたことが確認された。2時54分にはビーコンの受信が途絶えたため、カプセルが地面に着地したことがわかった。

3時07分には、着地予定エリアを取り囲む5箇所で電波を受信した方角から着地点が推定され、ヘリコプターによる捜索が始まった。薄明開始から約1時間後の4時47分にヘリコプターから地上のカプセルとパラシュートが目視で発見され、日の出後の6時23分からカプセルの回収作業が始まった。1時間ほどで回収は終わり、カプセルは現地本部に運ばれた。昼にはカプセル前面と背面のヒートシールドも見つかり、カプセル関連品の全てが回収された。

カプセルとパラシュート
ヘリコプターから発見されたカプセルとパラシュート。画像クリックで表示拡大(提供:JAXA)

回収されたカプセルは現地本部に置かれた初期観察施設(QLF)のクリーンルームに持ち込まれて、7日には内部のサンプルから揮発したガスが採取されて簡易分析が行われる見通しだ。その後、8日には日本に空輸されることになっている。

一方、「はやぶさ2」はカプセルが大気圏に再突入する間、探査機の側面を地球に向ける姿勢を取り、広角の光学航法カメラ「ONC-W2」を使って地球の夜景や火球の撮影が試みられた。ただし、この時間帯の「はやぶさ2」はちょうど地球のバン・アレン帯(地球磁場に捕らえられた放射線粒子が多く分布する領域)を通過したために、放射線によるノイズが画像に大量に写り込んでおり、火球の光跡を見分けることは難しいという。現在、ノイズを消す画像処理が行われているとのことだ。

「はやぶさ2」は2時30分ごろに高度200-300kmで近地点を通過し、現在は地球から離れつつある。運用チームでは、カプセル回収が進められていた6日6時30分に地球から8万8000kmの位置で、望遠の光学航法カメラ「ONC-T」を使って再出発直後の地球の画像を撮影した。

行ってきます、地球。
「行ってきます、地球。」と題して、12月6日6時30分に「はやぶさ2」の望遠カメラONC-Tで撮影された離れゆく地球の姿。地球からの距離は約8万8000km。画面右上に南極、上端に南米大陸の西岸が写っている(提供:JAXA、産総研、東京大、高知大、立教大、名古屋大、千葉工大、明治大、会津大)

6日午後の記者会見で、「はやぶさ2」プロジェクトマネージャの津田雄一さんは、「ただいま!『はやぶさ2』は帰ってきました。6年間の宇宙飛行を終えて、今朝私たちはオーストラリア・ウーメラの地に『玉手箱』を舞い降ろすことができました。惑星間往復飛行の扉を『はやぶさ』初号機が開き、私たちは『はやぶさ2』でその扉をくぐり抜けたということになります」と喜びを語った。

記念撮影
カプセル回収後の記者会見での記念撮影。左から、「はやぶさ2」プロジェクトマネージャの津田雄一さん、駐日オーストラリア大使のジャン・アダムズさん、JAXA理事長の山川宏さん、JAXA宇宙科学研究所長の國中均さん。背景の画面に写っているのは、左から、在オーストラリア日本大使館次席公使の大村周太郎さん、オーストラリア宇宙庁(ASA)長官のメーガン・クラークさん、JAXA宇宙科学研究所副所長の藤本正樹さん、「はやぶさ2」サブマネージャの中澤暁さん(撮影:星ナビ編集部)

また、「はやぶさ」初号機でイオンエンジンの開発を担当し、2012年から2015年の「はやぶさ2」機体開発期間に「はやぶさ2」プロジェクトマネージャを務めたJAXA宇宙科学研究所所長の國中均さんは、「『はやぶさ』初号機とは違い、完全にコントロールされたミッションを完遂できた。エンジニアリング冥利に尽きる。JAXA宇宙科学研究所も次のステージに上がることができたのではと考えている。(『はやぶさ』プロジェクトマネージャを務めた)川口淳一郎教授が作った道行きをさらに発展させてここまで来た。『はやぶさ2』チームに対しては宇宙研所長としてかなり厳しい指導をしてきたが、運用チームは大変よくやってくれた」と述べた。

今後、「はやぶさ2」は地球の近傍にいる間に地球・月をカメラや各種観測装置で観測し、観測装置の較正などに役立てる予定だ。

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