リュウグウの母天体は、10億年以上氷を保持していた

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小惑星リュウグウの試料の分析から、その母天体が10億年以上にわたり氷を保持していたこと、その氷が天体衝突で溶けたことを示唆する結果が得られた。また、地球の材料となった炭素質小惑星に、従来推定の2~3倍の水が含まれていた可能性も示された。

【2025年9月19日 国立極地研究所

小惑星は、惑星の材料となった始原的な天体の生き残りで、その多くの主成分は炭素だ。探査機「はやぶさ2」が試料を採取したリュウグウも炭素質小惑星で、より大きな母天体が天体衝突で破壊され、その破片が集まって形成された。

始原的な炭素質小惑星は、原始太陽系円盤の雪線(スノーライン)の外側で氷や有機物、鉱物の塵が集積して誕生し、その一部が太陽系の内側に移動して、水や炭素などを地球に供給したと考えられている。そのため、炭素質小惑星の水の歴史を解明することは、小惑星だけでなく地球の水の起源にも重要な示唆を与える。

これまでの炭素質隕石やリュウグウの試料の研究から、炭素質小惑星の誕生から数百万年の間に、集積した氷が溶けた水と岩石とが反応し、含水鉱物ができたことが知られている。一方、現在のリュウグウ試料は、水をほぼ全て含水鉱物の水酸基として保有している(参照:「リュウグウにはやはり水があった」)。しかし、含水鉱物以外の水が炭素質小惑星にいつまで存在したのか、どのように失われたのかは不明だった。

小惑星リュウグウと「はやぶさ2」が持ち帰った試料
小惑星リュウグウ(左)と「はやぶさ2」が持ち帰った試料(右)(提供:JAXA、東京大学など)

東京大学の飯塚毅さんたちの研究チームは、リュウグウ試料と6つの炭素質隕石を分析し、炭素質小惑星の水の行方に迫った。この研究では、ルテチウムの放射性同位体176Luがハフニウムの安定同位体176Hfに壊変する現象を、マグマ活動や岩石の変成・変質といった地質学的な事象が起こった年代を測る時計として利用している。

分析の結果、リュウグウ試料とタギッシュ・レイク隕石で、176Luに対する176Hfの存在比が他の隕石に比べて高くなっていた。この比を年代に換算すると約48億年前となり、太陽系の年齢(45.67億年)を大幅に上回ってしまう。飯塚さんたちは、リュウグウなどが形成された後にルテチウムが液体の水によって取り除かれてしまい、これが原因で、存在比が高くなってしまった(=計算される年代が長くなった)と考えている。水が流出した時期は、試料の形成から少なくとも10億年経った後に当たる、今から35.6億年前より新しい時代であるとみられている。

リュウグウ試料および炭素質隕石のルテチウム-ハフニウム同位体組成
リュウグウ試料および炭素質隕石のルテチウム-ハフニウム同位体組成。リュウグウ試料とタギッシュ・レイク隕石は48億年前の等時線(試料の親核176Luと娘核176Hfの含有量の関係を表す直線で、傾きから年代がわかる)の上に分布するのに対し、他の隕石は炭素質小惑星が誕生した年代45.6億年前の等時線上に分布する(提供:Iizuka et al., 2025 Natureを一部改変、以下同)

小惑星は惑星に比べてはるかに早く冷えるため、液体の水を10億年も持ち続けることは極めて困難である。10億年以上遅れて水の流出が起こったという今回の分析結果は、リュウグウ母天体を破壊するような天体衝突によって一時的な温度上昇が引き起こされ、液体の水が作られたという歴史を示唆するものと考えられる。

水の源の候補としては、含水鉱物中の水酸基、または鉱物の粒間に存在していた氷があるが、リュウグウ試料には含水鉱物が分解した痕跡がないことから、氷と考えるのが妥当だ。つまり、リュウグウの母体となった炭素質小惑星は、10億年以上にわたり氷を保持し、その氷が天体衝突によって溶け、水として流出したということになる。

リュウグウと母天体の歴史
リュウグウと母天体の歴史。(上)リュウグウの母天体は45.6億年前に太陽系外側で誕生し、その後の数百万年間に水と岩石が反応し含水鉱物が作られた。(中)それから10億年以上後に、天体衝突によって母天体内部の氷が溶け、流体活動が起こった。(下)天体衝突で破壊された母天体の様々な深さに由来する破片が一部集まってリュウグウができ、その表層付近の岩石が「はやぶさ2」により採取された。画像クリックで表示拡大

今回の研究結果は、地球の材料となった炭素質小惑星が含水鉱物だけでなく、氷という形でも地球に水を運んだことも示唆している。この場合、炭素質小惑星が保持した水の総量は20~30重量%と見積もられ、従来の推定量の2~3倍に相当する。

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