急増光した若い星の周りに見つかった多数の有機分子

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アルマ望遠鏡による観測から、若い星を取り巻く原始惑星系円盤にメタノールやアセトアルデヒドなど多数の有機分子が発見された。

【2019年2月8日 アルマ望遠鏡国立天文台

1300光年彼方にある「オリオン座V883星」は、若い星でときどき見られる一時的な大増光の最中にある。こうした増光は星の周囲を取り巻く塵やガスの円盤(原始惑星系円盤)から大量の物質が星に落下することで起こると考えられているが、100年程度しか続かないため珍しい存在だ。

原始惑星系円盤の中でも、中心星から遠い低温の領域では様々な有機物と水が混じりあった氷が塵の表面に付着していると考えられている。だが、星が急激に明るくなると円盤の温度が上昇し、スノーライン(円盤内で氷が昇華する温度になる場所)より外側でも広い範囲にわたって、氷に閉じ込められていた様々な分子がガスとして放出されると想定される。

こうした分子の成分を調べるため、韓国・キョンヒ大学のJeong-Eun Leeさんと東京大学の相川祐理さんたちの研究チームは、アルマ望遠鏡でこの星を観測した。その結果、複雑な有機分子であるメタノール(CH3OH)、アセトアルデヒド(CH3CHO)、ギ酸メチル(CH3OCHO)、アセトニトリル(CH3CN)、アセトン(CH3COCH3)、エチレンオキシド(H2COCH2)、ギ酸(HCOOH)、メタンチオール(CH3SH)が発見された。

「オリオン座V883星」の擬似カラー画像
アルマ望遠鏡による「オリオン座V883星」の擬似カラー画像。中心部に塵(オレンジ)が分布し、メタノール分子(青)がリング状に分布している(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Lee et al.)

アセトンが原始惑星系円盤で検出されたのは初めてのことだ。さらに、オリオン座V883星の円盤では、発見された分子の水素に対する存在比が一般的な原始惑星系円盤に比べて約1000倍以上高いことがわかった。これは、中心星の急増光によって確かに氷からガスとして分子が放出されたことを裏付けている。オリオン座V883星の周りの氷に含まれる複雑な有機分子の成分が、探査機「ロゼッタ」が調べたチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P)の成分と似ていることも明らかになった。

またアルマ望遠鏡の高い解像度により、原始惑星系円盤内のメタノールとアセトアルデヒドの空間分布がよく似ており、半径60天文単位(太陽系の海王星軌道の2倍の大きさ、約90億km)ほどのところにリング状に分布していることもわかった。

60天文単位よりも星に近いところでは、大量の塵が放つ電波に埋もれて分子の組成を調べることはできない。それより遠い低温の場所でも、分子が氷に閉じ込められているためやはり検出できない。つまり今回の観測では、円盤内で氷が昇華する温度になる「スノーライン」付近の氷の成分を明らかにすることができたといえる。

オリオン座V883星を取り巻く原始惑星系円盤の想像図
オリオン座V883星を取り巻く原始惑星系円盤の想像図。若い星の周囲には塵とガスの円盤、一定の半径(スノーライン)より外側では水や様々な有機分子が氷となっており、その内側では氷がとけている。今回、そのスノーライン周辺で複雑な有機分子が検出された(提供:国立天文台)

「彗星に限らず、地球型惑星や氷惑星は円盤内の固体物質の集積で形成されます。ですから、固体物質の組成を解明することは惑星系形成の研究において非常に重要なのです」(相川さん)。

急増光のまっただなかにある天体はそれほど多くはないが、非常に若い星から少し進化した若い星まで、幅広い進化段階にわたって急増光が見られることが知られている。研究チームでは、急増光中の様々な年代にある星の周りの氷の成分を調べることで、星の進化に伴う周囲の化学組成の変化も追いかけることができると期待している。

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