惑星はいつできる?解像度の限界を超える新技術で推定
【2025年6月30日 アルマ望遠鏡】
原始惑星系円盤の中で惑星ができ始めると、惑星の重力によって円盤内にリング状や螺旋状の構造が作られる。たくさんの原始惑星系円盤でこの特徴的な構造の有無や出現時期を調べると、太陽系のような惑星系の形成過程を理解する手がかりになると期待される。
アルマ望遠鏡ではこれまで、多数の原始惑星系円盤を高解像度で観測する「eDisk(Early Planet Formation in Embedded Disks)」や「DSHARP(The Disk Substructures at High Angular Resolution Project)」というプロジェクトが行われてきた。これらのデータから、原始惑星系円盤は中心星の年齢で特徴が異なることが示唆されている。
たとえば、中心星が誕生から1~10万年しか経っておらず、星と円盤にさかんに物質が降り積もっている段階の円盤にははっきりした構造はほとんど見られないが、誕生から100万年以上経った星の円盤にはリングや螺旋の構造が多く見つかっている。
(左)eDiskプロジェクトで観測された1~10万歳の恒星を取り巻く円盤、(右)DSHARPプロジェクトで観測された20万~1300万歳の恒星を取り巻く円盤(提供:(左)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), N. Ohashi et al.、(右)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), S. Andrews et al.; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello)
こうした特徴的な構造が原始惑星系円盤にいつ現れるのかを知るには、これらのプロジェクトで観測された円盤年齢の「中間」にあたる円盤も広く観測することが必要だ。しかし、eDiskやDSHARPのように高解像度の画像が得られた円盤はまだ限られていて、統計的な調査は十分にできていなかった。
そこで、九州大学/台湾中央研究院天文及天文物理研究所の所司歩夢さんたちの研究チームは、「スパースモデリング」と呼ばれる「超解像度」画像復元法に注目した。
アルマ望遠鏡のような電波干渉計は、複数の電波望遠鏡で電波を受信して合成し、あたかも「望遠鏡どうしの距離」を口径とする巨大望遠鏡で観測したような高分解能の画像が得られる。しかし実際には、仮想的な口径の内側を望遠鏡が埋め尽くしているわけではないので、画像を作るのに必要なデータはつねに大きく欠けている。そこで、データの不足を様々な仮定で補って画像復元を行う。
今回使われたスパースモデリングは、このような「すかすか」のデータから意味のある情報を効果的に取り出せる手法で、同じ元データからより高解像度の画像を作成できる。MRIなどの医用画像の処理や、ブラックホールシャドウを撮影した「EHT」の画像復元でも使われている技術だ。
所司さんたちは、国内で開発されたスパースモデリングによる画像復元プログラム「PRIISM」を使い、地球から460光年の距離にあるへびつかい座星形成領域の78個の原始惑星系円盤について、アルマ望遠鏡のアーカイブデータを解析した。
その結果、半数以上の天体で従来の3倍以上(DSHARPやeDiskの画像と同等レベル)に解像度を高めた画像が得られた。画像を作成した天体の総数は両プロジェクトの約4倍と、大きくサンプル数を増やすことができた。
今回得られた78個の円盤の画像のうち、27個の円盤からリングや螺旋状の構造が見つかった。そのうち15個は今回初めてこうした特徴的な構造が見つかったものだ。
従来の手法とスパースモデリングを使った新たな画像復元法で得られた、へびつかい座星形成領域の原始惑星系円盤の画像。左下の楕円マークが分解されているサイズの目安を表す。右下のスケールは30天文単位(45億km)。左列から右列へ、同じ列では上から下へ向かって、中心星の年齢が高くなっている(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), A. Shoshi et al.)
さらに研究チームは、今回のデータとeDiskプロジェクトのデータを組み合わせた統計解析を行い、中心星の誕生から数十万年後に、30天文単位以上の半径を持つ円盤で特徴的な構造が現れ始めることを突き止めた。これまでの推定よりも非常に若い段階で惑星ができ、恒星とともに成長していくことを示す結果だ。
原始惑星系円盤の年齢・サイズと「特徴的構造」の有無の関係。横軸が明るさ(温度)からみちびいた円盤の年齢、縦軸が円盤の半径を表す。紫・赤・黄色のマーカーが、惑星ができ始めた円盤に特有の構造を持っているものを表す(提供:A. Shoshi et al.)
「この結果は、これまでのeDiskとDSHARPプロジェクトの間を埋めるもので、新たな画像復元法により高い解像度と多数のサンプルの両立が可能になったことで、初めて得られた知見です。今回の研究はへびつかい座の円盤のみを対象としたものですが、今後、他の星形成領域と比較することで、このような傾向が普遍的なものかどうかが明らかになるでしょう」(所司さん)。
中心星の誕生から数十万年後の原始惑星系円盤の想像図。惑星ができ始めたことで、円盤内に溝やリング状の構造が現れている(提供:Y. Nakamura, A. Shoshi et al.)
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:新たな超解像度画像解析で発見!星誕生直後の惑星形成の第一歩
- PASJ:ALMA 2D super-resolution imaging survey of Ophiuchus Class I/flat spectrum/II disks. I. Discovery of new disk substructures 論文
〈関連リンク〉
- アルマ望遠鏡
- ALMA (ESO)
- SPIE:PRIISM
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