exoALMAが明らかにした動的で複雑な惑星誕生の現場

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アルマ望遠鏡を用いた観測プログラム「exoALMA」で、若い星を取り巻く原始惑星系円盤の密度や温度、速度構造が高精度でマッピングされた。円盤が動的で複雑な構造を持つなど、惑星形成環境に関する重要な知見が得られている。

【2025年5月8日 アルマ望遠鏡

「exoALMA」は、アルマ望遠鏡の持つミリ波・サブミリ波での高い分解能を活用して、原始惑星系円盤内で形成途上にある惑星を探索することを目的とした大規模観測プログラムだ。その優位性は、主に次のような点にある。

  • 高い解像度・高い感度:高解像度および高い速度分解能でガス放射を観測することで、惑星形成に関わる微細な構造と運動を検出することが可能。
  • 複数の分子トレーサー:一酸化炭素(12CO、13CO)と一硫化炭素(CS)の放射を同時観測することにより、円盤内の異なる高さや物理条件を立体的に探ることが可能。
  • データ処理・画像化手法の改善:異なる時期に取得された観測を精密に整列させ、ノイズや歪みの除去を実現。丁寧で高精度の処理により、信頼性の高い画像が得られ、円盤内の構造の検出精度が従来より向上。
  • 数値・解析手法の開発と検証:新たな数値的・解析的手法の洗練とベンチマークの実施により、観測データからの情報抽出の精度が高まり、シミュレーションを通じた物理的予測の検証も可能。

生まれたての惑星の兆候が見られる原始惑星系円盤の想像図
生まれたての惑星の兆候が見られる原始惑星系円盤の想像図(提供:NSF/AUI/NSF NRAO/S.Dagnello)

exoALMAによって15個の若い天体を取り巻く原始惑星系円盤中のガスの運動を詳細に調べ、塵の分布と同時に解析したところ、惑星系形成円盤の密度、温度、速度構造がかつてない精度で描き出された。この結果から、塵の円盤に溝やリング、惑星の重力によって生じるガスの渦巻き運動、さらに惑星の存在を示唆する円盤内の物理的な変化など、生まれたての惑星の兆候が明らかになった。

「ガスと塵を同時に解析することで、原始惑星系円盤の中で実際に働いている物理プロセスが浮かび上がり、それが観測で頻繁に検出される構造の起源である可能性が見えてきました」(exoALMA共同代表、伊・ミラノ大学 Stefano Facchiniさん)。

原始惑星系円盤内の一酸化炭素ガスからの放射
15個の原始惑星系円盤内の、一酸化炭素(12C0)ガスからの放射。溝やリング、渦巻き構造など多様な構造が見られる(提供:Richard Teague and the exoALMA Collaboration.)

主な成果として次のようなものが挙げられる:

  • 原始惑星系円盤が非常に動的で、ガスにおいても塵に匹敵するほど複雑な構造を持つことが観測から明確に示された。
  • 円盤の回転速度プロファイルの抽出によってケプラー回転からの微細なずれがとらえられ、円盤内の局所的な圧力変化が大きな塵をリング状に集積させる駆動力となっていることが示唆された。
  • 銀河の回転曲線から暗黒物質の質量を推定するのと同様に、円盤そのものの重力の影響を用いて、惑星の材料となるガスの質量を新たな方法で推定した。
  • 伴星や惑星との力学的相互作用、複雑な不安定性の兆候をとらえて、太陽系に似たシステムの初期形成段階における物理機構を明らかにした。

「私たちの新しいアプローチは、老眼鏡を高性能の双眼鏡に替えるようなもので、誰も目にしていなかった微細な世界を浮き彫りにします。惑星が形成されつつある円盤が大きく乱され、非常にダイナミックであることを示す証拠をとらえました。これは、生まれつつある惑星が、自らを育む円盤に影響を及ぼしていることを強く示唆しています」(exoALMAプログラム代表 米・マサチューセッツ工科大学 Richard Teagueさん)。

これまで原始惑星系円盤での惑星探しは、若い惑星からの光を直接とらえようとする方法で行われてきたが、exoALMAでは、惑星が周囲に及ぼす影響に着目している。この手法を用いれば、これまでよりはるかに若い惑星を見つけられる可能性があり、惑星系形成プロセスの解明が大きく前進すると期待される。「池の中の魚を直接見る代わりに、水面に広がる波紋を手がかりに魚を探るようなものです」(exoALMAプログラ共同代表 仏・グルノーブル惑星学・天体物理学研究所、豪・モナシュ大学 Christophe Pinteさん)。

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