30万光年先まで到達するブラックホールの爆風

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銀河団の中心に位置する銀河の超大質量ブラックホールから吹き出す風が、銀河を超えて30万光年先までエネルギーを運び、銀河団内の広い空間にまで影響を及ぼしていることが、X線観測から明らかになった。

【2026年8月5日 東北大学

多くの銀河の中心には、太陽の数百万~数十億倍の質量を持つ超大質量ブラックホールが存在する。活発に活動する超大質量ブラックホールは周囲の物質を吸い込み、物質の一部を高速のガスとして噴出する。この「ブラックホールの風」は、銀河やその周囲のガスに影響を与える重要な現象と考えられている。

これまでの観測では、ブラックホールの風の影響は銀河内部にとどまると考えられてきた。一方で、理論的には、ブラックホールの風が銀河を超えて、その銀河が属する銀河団にまで影響を及ぼす可能性があると指摘されていた。しかし、銀河の外側の高温ガスは観測が難しく、十分に調べられていなかったため、風の影響がどこまで広がっているのかは観測的には未解明となっていた。

銀河団、単一の銀河、超大質量ブラックホールの階層構造
銀河団、銀河団に属する単一の銀河、銀河中心の超大質量ブラックホールへと至る階層構造の模式図。ブラックホールは銀河の半径に比べて約1億倍以上も小さい(提供:東北大学)

東北大学学際科学フロンティア研究所の山田智史さんを中心とする研究チームは、銀河団の中心にある急成長中の超大質量ブラックホールとその周辺の高温ガスに着目し、ブラックホールから噴き出す風の影響を、銀河団を満たす高温ガスが放射するX線で直接調べることを試みた。

山田さんたちはX線分光撮像衛星「XRISM」を用いて、りゅう座の方向約34億光年離れた銀河団「H1821+643」を観測し、X線分光装置「Resolve」が取得した鉄イオンの輝線の解析からガスの運動構造を測定した。その結果、銀河団の中心部に位置するブラックホール周辺の高温ガスは静的ではなく、乱流や大規模な流れとして広範囲で激しくかき乱されていることが明らかになった。ガスの視線速度の幅(速度分散)は秒速300kmと、近傍の銀河団中心部で観測されている値をはるかに上回っている。

また、ガスの運動は銀河の大きさである半径約3万光年を超えて広がり、約30万光年先にまで及んでいることが確認された。さらに、そのエネルギー量が従来推定の100倍以上の約1054ジュールに達していて、超新星爆発の数十億回分以上に相当することが判明した。このエネルギー規模は、銀河団の環境を再現するために理論シミュレーションが必要とする量とも矛盾しない。

H1821+643銀河団の中心領域のX線輝線のエネルギー分布
(上)X線宇宙望遠鏡「チャンドラ」による銀河団「H1821+643」のX線画像。(緑の点線)観測領域(1辺約90万光年)。(下)中心領域(半径約30万光年)における鉄イオンのX線輝線のエネルギー分布。(白)観測データ、(赤)モデルのフィット。代表的な銀河団(ペルセウス座銀河団、紫)と比べて線幅の広がりが顕著で、広範囲で高温ガスの運動が激しいことがわかる(提供:Yamada et al.)

これらの結果から、超大質量ブラックホールから噴出する「爆風」が、銀河を超えて広い領域へ莫大なエネルギーを運び、周囲の環境に影響を与えていることが、世界で初めて明らかになった。ブラックホールの風が銀河や銀河団の進化における中心的役割を果たしていることを示唆するものだ。

「こうした研究の進展により、宇宙における物質や元素の循環の理解が進み、星や生命を形づくる材料がどのように宇宙へ広がっていったのかという起源の解明にもつながると期待しています」(山田さん)。

今回の研究の概念図
今回の研究の概念図。銀河中心の超大質量ブラックホールから「爆風」が噴き出し、そのエネルギーが銀河を超えて銀河団の領域にまで到達する様子を描いている(提供:東北大学)

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