潮汐破壊現象の偏光観測により、銀河中心の特異な構造を解明

このエントリーをはてなブックマークに追加
銀河中心で起こった恒星の破壊現象をすばる望遠鏡で偏光観測したところ、現象に伴うガスの噴出方向と銀河中心環境が空間的に直交するという特異な幾何構造が示唆される結果が得られた。

【2025年6月24日 京都大学

銀河の中心に存在する超大質量ブラックホールに恒星が近づくと、ブラックホールの重力による潮汐力で恒星が引き裂かれる。この現象は「潮汐破壊現象(TDE; Tidal Disruption Event)」と呼ばれ、銀河全体に匹敵するほど明るく輝くため遠方で起こっても観測が可能だ。ただし、潮汐破壊現象は発生頻度が小さいなどの理由のため、詳細な観測例は限られてきた。

潮汐破壊現象の想像図
潮汐破壊現象の想像図。恒星が超大質量ブラックホールに接近して落ち込んで破壊され、ブラックホールからジェットが噴出している(提供:Sophia Dagnello, NRAO/AUI/NSF; NASA, STScI

2023年2月、しし座の方向約1億6500万光年彼方に位置する銀河NGC 3799の中心で、急激に増光する突発天体「AT 2023clx」が発見された。京都大学の宇野孔起さんたちの研究チームは岡山天文台せいめい望遠鏡ですぐに追観測を実施し、スペクトルの特徴からこの天体が潮汐破壊現象であることを突き止めた。

続いて宇野さんたちは、米・ハワイのすばる望遠鏡でAT 2023clxの偏光分光観測を行った。すると、1回目の観測と2回目の観測で、偏光の振動面の角度が90度変化していることが明らかになった。このような特徴的な状態が観測されたのは初めてのことだ。

1回目の観測の偏光は、潮汐破壊現象によって引き起こされた超大質量ブラックホールからのガス噴出の⽅向によるもので、2回目のほうは、ブラックホール周辺に広がる塵のトーラス(ドーナツ状の構造)の⽅向による。つまり、偏光の振動面が90度変化したということは、ガス噴出と塵のトーラスが幾何学的に90度直交しているという予想外の構造を意味するものだという。90度直交という配置は、ブラックホールに破壊された星がトーラス方向から接近したことを示唆している。

AT 2023clx/銀河中心領域のイメージ図
(左)Pan-STARRSサーベイによるAT 2023clxの発見前像。(中)せいめい望遠鏡による発見後の像。(右)銀河中心領域のイメージ図。塵のトーラスの方向からやってきた星(青の★)が壊され、塵のトーラスと超大質量ブラックホールからのガスの噴出方向が直交する。トーラスの方向以外から星がくる(赤)場合、塵の構造とガス噴出方向は直交しない。画像クリックで表示拡大(提供:Pan-STARRS1 survey (N. Kaiser et al. 2002)、京都⼤学岡⼭天⽂台/TriCCS、プレスリリース)

今回のような観測研究を通じて、潮汐破壊現象そのものについて、さらには超大質量ブラックホールやその周辺環境、銀河中心領域の恒星進化などについても理解が進むことが期待される。

関連記事