ペルセウス座銀河団で50億年前に起こった大衝突

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静穏な銀河団と考えられてきたペルセウス座銀河団の撮像データを詳細に分析した研究から、この銀河団は約50億年前に太陽200兆個分に相当する巨大なダークマターの塊と衝突していたことが示された。

【2025年4月30日 すばる望遠鏡

約2億4000万光年の距離に位置するペルセウス座銀河団は1000個以上の銀河の集まりで、太陽のおよそ600兆個分の質量を持つ。この銀河団には明確な合体の痕跡が見られず、合体を終えて安定した状態にある「静穏な銀河団の典型例」として知られてきた。

ペルセウス座銀河
ペルセウス座銀河団(撮影:バークレーさん)。画像クリックで天体写真ギャラリーの「ペルセウス座銀河団」一覧

ところが近年、静穏状態とは相反する非対称に分布するプラズマガスや、大規模な「コールドフロント」と呼ばれる熱いガスとの境界面の存在などが明らかになっており、ペルセウス座銀河団は過去に大きな衝突・合体を経験したことが示唆されている。これらの構造が本当に過去の衝突の痕跡であれば、その相手となった天体はどこにあるのだろうか。

この謎を解明するため、韓・延世大学のKim HyeongHanさんたちの研究チームは、銀河団のダークマターによって背後の銀河の形がごくわずかに歪められる「弱重力レンズ効果」を精密に測定する方法を独自に開発し、その手法をすばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム」で取得されたペルセウス座銀河団の撮像データに適用して、周囲のダークマターの分布を調べた。

その結果、ペルセウス座銀河団の中心に位置する銀河「NGC 1275」を取り巻くダークマターの主構造から、約140万光年離れた銀河「NGC 1264」の周囲に、太陽200兆個分に相当するダークマターの巨大な塊が特定された。さらに、この副構造とペルセウス座銀河団の中心部が、淡いダークマターの「橋」のような構造で結ばれていることも明らかになった。

ペルセウス座銀河団周辺のダークマターと銀河の分布
ペルセウス座銀河団周辺のダークマターと銀河の分布。(白の等高線)ダークマター、(マゼンタと緑の等高線)銀河団に属する銀河の数(光度)の分布を平滑化したもの、(赤線)コールドフロントの位置、(黄線)ペルセウス座銀河団の中心にある銀河NGC 1275と、中心から約140万光年離れたNGC 1264の位置(提供:Kim et al.、以下同)

Kimさんたちは数値シミュレーションを行って、約50億年前に銀河団とその3分の1ほどの質量を持つ副構造とが衝突・合体し、両者を結ぶ橋のような構造や、銀河団の中心から220万光年以上離れたところにあるコールドフロントといった構造が形成されることを示した。これにより、今回見つかった構造が、銀河団と副構造との重力的な相互作用を示す直接的な証拠であることが確認された。

ペルセウス座銀河団で検出されたダークマターの分布
ペルセウス座銀河団で検出されたダークマターの分布(青色)。背景は、すばる望遠鏡のHSCで撮影された画像

今回の研究により、巨大なダークマターの塊が約50億年前にペルセウス座銀河団と衝突したことが突き止められ、ペルセウス座銀河団の力学的状態に関する長年の疑問に終止符が打たれることとなった。衝突の痕跡は今も銀河団の構造に影響を及ぼしていると考えられる。

「これこそ、ずっと探し求めていた“最後のピース”です。ペルセウス座銀河団で観測されていた非対称な構造や、ガスの渦も、銀河団の大規模な合体という文脈の中でつじつまが合います。今回の成果は、すばる望遠鏡による深い観測データと、私たちが開発してきた高度な重力レンズ解析を組み合わせることで実現しました。重力レンズは、宇宙最大級の構造の隠れたダイナミクスを明らかにする非常に強力な手段であることを示したといえます」(延世大学 James Jeeさん)。

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