X線の“こだま”が描き出す巨大ブラックホール周辺の構造
【2026年3月9日 大阪大学】
銀河の中心にある超大質量ブラックホールとその母銀河は、互いに影響を及ぼし合いながら共に進化してきたと考えられている。そのため、銀河の進化の鍵を握るブラックホールとその周囲の環境や構造を理解することは、天文学の重要な課題の一つだ。
超大質量ブラックホールの周りには、外側から順に、分子ガスや塵からなる「核周円盤」、大量の塵を含むドーナツ状の「トーラス」、高温のガスからなる「降着円盤」があると考えられている。これらの構造を形づくる物質は最終的にはほとんどがブラックホールに飲み込まれる。過去に、高解像度の電波や赤外線での観測によって、核周円盤の姿がとらえられている。
しかし、電波や赤外線は観測できる物質の状態や領域に制限がある。一方、X線には物質の状態によらず観測が可能だという利点があるが、解像度があまり高くないという弱点があり、過去のX線観測では、こうしたブラックホール周辺のガスの広がりや構造までは詳しくとらえられなかった。

ブラックホールを取り囲む構造を描いた想像図。中心のブラックホールの周りに高温ガスからなる「降着円盤」が存在し、その外側に低温のガスや塵からなるドーナツ状の「トーラス」がある。降着円盤から放たれたX線によってトーラスの内側の鉄原子が励起され、蛍光X線を発している(提供:CXC/M.Weis)
大阪大学の宮本愛子さんたちの研究チームは、地球に最も近い活動銀河の一つである「コンパス座銀河」(ESO 97-G13、距離約1400万光年)に着目し、NASAのX線観測衛星「チャンドラ」が20年間にわたってこの銀河を観測したデータを詳しく解析した。
その結果、ブラックホールの周辺にある鉄の原子が出す「蛍光X線」の明るさが、半年から数年単位で激しく変化していることを発見した。
この鉄の蛍光X線は、ブラックホールのすぐそばから出たX線が周辺の物質に含まれる鉄原子に吸収された後に特有のエネルギーのX線となって再放射されるもので、音波の反射(こだま)に似ていることから「X線エコー」とも呼ばれる。X線エコーの時間変化は、私たちの天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホール「いて座A*」の周辺でも観測されている。
今回、宮本さんたちは、天の川銀河以外の銀河では世界で初めて、超大質量ブラックホールからのX線が約100光年離れた場所の物質に当たって反射したX線エコーの時間変化をとらえた。

X線観測衛星「チャンドラ」がとらえた鉄の蛍光X線の時間変化。明るい領域ほどX線が強い(提供:大阪大学リリース、以下同)
また、反射されたX線が変動する時間スケールに光速を掛け算して、X線を反射しているガス塊のサイズの上限を求めたところ、およそ20光年と求められた。従来のX線望遠鏡の解像度では約30光年以下の構造を見分けることは不可能だったが、宮本さんたちはX線の変光を利用することで、解像度の限界を超えた小さな構造をとらえることに成功した。
さらに、この蛍光X線の分布をアルマ望遠鏡で観測した分子ガスの分布と比べることで、X線が強く照射されている領域では分子ガスが分解されていることも明らかになった。ブラックホールの活動が周囲の環境に物理的な影響を与えている可能性を示す結果だ。
「20年にわたる観測データを詳細に分析するプロセスは困難の連続で、何度も解析を繰り返す作業には根気が必要でした。試行錯誤の末に本研究成果を導き出せたときは、これまでの苦労が報われる思いでした」(宮本さん)。
今回の研究で、星の材料となる物質をブラックホールが分解・変質させる様子がとらえられたことで、銀河の成り立ちや銀河とブラックホールの共進化の歴史をより正確に描き出すことに役立ちそうだ。また、観測対象の時間変化を利用する解析手法によって、過去の観測データに新たな科学的価値を与えられる可能性も示している。
〈参照〉
- 大阪大学:超巨大ブラックホール周辺のX線エコーで銀河中心の構造を解明 ―20年分の観測データで解像度の限界を突破―
- PASJ:Possible time-variable iron-Kα emission in the circumnuclear region of the Circinus galaxy 論文
〈関連リンク〉
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