プロキシマケンタウリの巨大フレアを多波長で観測
【2021年5月10日 アルマ望遠鏡/アメリカ国立電波天文台】
赤色矮星と呼ばれるタイプの恒星は、太陽よりも質量が小さいものの活動は活発なものが多く、恒星表面での爆発現象であるフレアを頻繁に起こすものもある。そのような赤色矮星の一つで、太陽系に一番近い(距離約4.2光年)恒星でもあるプロキシマケンタウリで、太陽で起こるフレアをはるかに上回る規模の爆発が観測された。
2019年に観測されたプロキシマケンタウリ(左)の巨大フレアと惑星「プロキシマケンタウリb」(右)の想像図(提供:S. Dagnello, NRAO/AUI/NSF、以下同)
巨大フレアは2017年のアルマ望遠鏡による観測で初めて、偶然見つかっている(参照:「プロキシマケンタウリで発生した巨大フレア」)。赤色矮星のフレアがミリ波で観測されたのもこのときが初めてだ。そこで、この巨大フレアをほかの波長の電磁波でもとらえるべく、2019年4月から7月にかけての合計40時間にわたり、観測衛星も含めて世界中で9つの望遠鏡がプロキシマケンタウリを観測した。
その結果、2019年5月1日(世界時)に継続時間わずか7秒ながらも、プロキシマケンタウリが紫外線で通常の14000倍、ミリ波でも1000倍以上明るくなる巨大フレアが観測された。フレアは可視光線や電波でもとらえられていて、太陽以外の恒星では初めてとなる規模での多波長同時観測に成功した。
この同時観測により、フレア発生時の星表面の磁場強度や荷電粒子のエネルギー分布を見積ることができた。また、巨大フレアに伴うミリ波と紫外線の関係がわかったことで、今後はミリ波の観測から放出された紫外線の強度を計算できるようになるという。
こうした結果が注目されるのは、プロキシマケンタウリの周りに惑星(プロキシマケンタウリb)が見つかっているからだ。
惑星「プロキシマケンタウリb」(右)側から見た、プロキシマケンタウリの巨大フレアの想像図
惑星プロキシマケンタウリbは、主星の周りを約11日で一周している。星からの平均距離は太陽・地球間の20分の1と極めて近いが、プロキシマケンタウリ自体が太陽に比べてはるかに暗いため、惑星は極端に高温ではなく、表面に液体の水が存在するだけの条件が整っている。そうなれば、生命が存在する可能性もある。
だが、その至近距離で強い紫外線や高エネルギー粒子を放出するフレアが起こっているとなれば話は別だ。「プロキシマケンタウリの惑星は、フレアの影響を少なくとも1日に1回、もしかしたら1日に何度も受けているでしょう。もしプロキシマケンタウリの惑星に生命がいたとしたら、地球の生命とはまったく異なる見た目をしていると思います。人間がもしその惑星にいたら、ひどい目にあうことでしょう。星のフレアの物理を理解するために、この星がどんなサプライズを見せてくれるのかを楽しみにしています」(米・コロラド大学ボルダー校 Meredith MacGregorさん)。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:太陽にもっとも近い恒星の巨大フレアを多波長で初観測
- アメリカ国立電波天文台:Record-breaking stellar flare from nearby star recorded in multiple wavelengths for the first time
- The Astrophysical Journal Letters:Discovery of an Extremely Short Duration Flare from Proxima Centauri Using Millimeter through Far-ultraviolet Observations 論文
〈関連リンク〉
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