「子宇宙」から生まれた原始ブラックホールがあるかも

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宇宙の誕生直後にたくさんの「子宇宙」が生まれ、これが収縮して原始ブラックホールになったという理論が提唱された。ダークマターの正体はこうしてできた原始ブラックホールかもしれないという。

【2021年1月8日 カブリIPMU

この宇宙には、重い恒星が一生の最期に超新星爆発を起こして作られる「恒星質量ブラックホール」や、銀河の中心部に存在する「超大質量ブラックホール」などのブラックホールが存在することが知られている。これらとは別に、ビッグバンで宇宙が誕生した直後の時期に「原始ブラックホール」が大量に作られたという説が、1970年代に宇宙物理学者のスティーブン・ホーキングなどによって提唱されている。

原始ブラックホールの理論はたくさんあり、誕生直後の宇宙で様々な物理過程によって、様々な質量の原始ブラックホールが生まれる可能性がある。たとえば、初期宇宙でエネルギー密度が平均より3割ほど高い領域があると、自らの重力によって空間自体がつぶれて原始ブラックホールになる、といったモデルが考えられている。

もし原始ブラックホールが実在すれば、銀河中心部の超大質量ブラックホールがいつどのようにして生まれるのか、「LIGO」などの重力波望遠鏡で検出されている数十~100太陽質量程度のブラックホールがどうやってできたのかという未解決の問題を説明できる可能性がある。さらに、宇宙の全物質の約8割を占めていて、質量を持つが光では観測できない「ダークマター」の正体も、原始ブラックホールだという理論が唱えられている。

原始ブラックホールが宇宙空間に浮遊していると、地球から遠くの天体を観測したときに、たまたまその視線上を原始ブラックホールが横切ることで、遠くの天体が一時的に明るく見える「重力マイクロレンズ効果」という現象が観測されるはずだ。だが、これまでの数多くの観測から、おおよそ10-10太陽質量(=月の質量の1/30ほど)より重い原始ブラックホールは存在しないか、存在するとしてもせいぜいダークマター全体の数十分の1以下にしかならない、という上限が付いている(参考:「ダークマターは原始ブラックホールではなさそう」)。

一方で、10-10~10-16太陽質量(=直径数kmの小惑星程度)の質量を持つ原始ブラックホールについては、今のところ観測で存在を否定されてはいない。

そこで、米・カリフォルニア大学ロサンゼルス校および東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)のAlexander Kusenkoさんたちの研究チームは、誕生直後の宇宙が「インフレーション」と呼ばれる急激な加速膨張をした時代に、たくさんの小さな「子宇宙」(多元宇宙)が生まれ、この子宇宙が収縮して原始ブラックホールになる可能性に着目して理論的な研究を行った。

多元宇宙シナリオの想像図
多元宇宙シナリオの想像図。宇宙の初期に起こったインフレーションによって、私たちの宇宙の中に多くの「子宇宙」が生まれ、それらが収縮して現在原始ブラックホールとして見えている可能性が考えられている(提供:Kavli IPMU)

研究チームによると、こうした子宇宙から生成される原始ブラックホールは、質量の小さいものほどたくさん生まれ、まだ観測で否定されていない質量の範囲と矛盾しないような質量の分布を持つはずだという。

研究チームでは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム(HSC)」を使い、月の質量程度の天体で引き起こされたと考えられる重力マイクロレンズ現象を2014年に1例だけ観測している。今後は、今回のモデルで考えたような宇宙初期の子宇宙を起源に持つ原始ブラックホールをHSCで探索する追観測を本格的に行い、モデルが正しいかどうかの検証を目指すという。

重力マイクロレンズ効果
原始ブラックホールが引き起こす重力マイクロレンズ効果のイラスト。地球からアンドロメダ座大銀河(M31)を観測しているときに原始ブラックホールが視線上を横切ると、M31の星が重力マイクロレンズ効果で一時的に明るく観測される。すばる望遠鏡の超広視野カメラ「HSC」を使えば、M31の膨大な星を同時に観測してこうした現象を検出することが可能だ(提供:Kavli IPMU / HSC Collaboration)