ダークマターは原始ブラックホールではなさそう

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すばる望遠鏡で撮影したアンドロメダ座大銀河の画像解析から、重力マイクロレンズ現象が調べられた。その結果をもとに、ダークマターが原始ブラックホールではない可能性が高いことが観測的に初めて示された。

【2019年4月8日 すばる望遠鏡

宇宙にダークマター(暗黒物質)が存在することは、銀河の回転や銀河団内の銀河の運動、重力レンズ効果などによって確かめられている。ダークマターの総量は通常の物質の約5倍だが、その正体はわかっていない。

ダークマターの候補の一つが、高温かつ高密度の初期宇宙で形成されたかもしれない原始ブラックホールだ。ホーキングが1970年代に最初に提案したアイディアで、月より軽い原始ブラックホールがダークマターである(そのようなブラックホールが宇宙に大量に存在している)という説である。

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の新倉広子さんたちの研究チームは、この説の可能性を調べるため、すばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム(Hyper Suprime-Cam; HSC)」で観測されたアンドロメダ座大銀河の画像を解析した。

アンドロメダ座大銀河
HSCで撮影したアンドロメダ座大銀河に、原始ブラックホールによる重力マイクロレンズ現象の様子(中央左の輝星と黒点)を描き加えた想像図(提供:Kavli IPMU)

地球とアンドロメダ座大銀河の間の宇宙空間には大量のダークマターが存在するはずなので、ダークマターが原始ブラックホールであれば、ここにもブラックホールが存在することになる。新倉さんたちの研究では、この原始ブラックホールによって引き起こされるであろう重力レンズ効果に着目した。

原始ブラックホールがアンドロメダ座大銀河の星の手前を横切ると、原始ブラックホールによる重力レンズ効果で星の明るさが変化する。月質量程度の原始ブラックホールの場合、星の明るさの時間変化は10分から数時間かけて起こる。重力レンズ効果は非常に稀な現象で滅多に起こらないが、地球とアンドロメダ座大銀河の間に多数の原始ブラックホールが存在すれば、重力マイクロレンズ現象が起こる確率は非常に高くなるはずである。

研究チームは2014年の11月23日の夜に、約7時間で190枚ほどのアンドロメダ座大銀河の連続画像を取得した。HSCの広視野とすばる望遠鏡の集光力のおかげで、約9000万個の星を同時測定することができ、そこから約1万5000個もの変光天体が発見された。

この中から、重力マイクロレンズ効果が予言する明るさの時間変動と一致する天体、つまり重力レンズ現象の候補天体を探したところ、わずか1個だけ、重力マイクロレンズ候補星が見つかった。

重力マイクロレンズ効果の候補天体と明るさの変動グラフ
原始ブラックホールによる重力マイクロレンズ効果の候補天体。上段が候補天体の画像。左から右にかけて、候補天体の明るくなる前の画像、明るくなった後の画像、その2つの画像の差分画像。下段のグラフは、観測開始から約4時間後に星が徐々に明るくなり、その40分後に最大の明るさに、その後徐々に暗くなって元の明るさに戻ったことを示す。実線は、この観測結果を再現する重力マイクロレンズ効果の予言を示す(提供:Niikura et al.)

これが本当に原始ブラックホールによる重力マイクロレンズ現象かどうかは追観測で確かめる必要になる。ただし、仮にこれが本当に原始ブラックホールであったとしても、1000個程度の重力レンズ現象を発見できるという理論予測に対して割合が小さすぎ、原始ブラックホールの総量はダークマターの約0.1%程度の質量にしか寄与していないことになる。

今回の解析結果は、太陽質量の10億分の1(月質量の30分の1程度)の軽い原始ブラックホールがダークマターであるという説を棄却するものとなった。研究チームでは今後もアンドロメダ座大銀河をHSCで観測し、時間変動天体、原始ブラックホールの重力マイクロレンズ効果の探索研究を発展させる予定だという。