天王星の衛星の起源に新説、地球とも木星とも異なる形成モデル

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天王星の衛星は総質量が天王星に比べてとても小さく、遠く離れた位置で天王星と同じく大きく傾いた軌道を回っている。こうした特徴は、地球のような岩石惑星とも木星のようなガス惑星とも異なる、氷惑星である天王星ならではのモデルで説明できるかもしれない。

【2020年4月10日 京都大学東京工業大学

太陽系の惑星の多くは、太陽の周りを回る軌道面に対しておおむね直立して自転しているが、天王星の自転軸は直立方向から98度とほぼ横倒しになっている。そして天王星の主要な衛星5つ(アリエル、ウンブリエル、タイタニア、オベロン、ミランダ)も天王星の自転に沿って、横倒しの軌道を回っている。

天王星の公転軌道と自転軸、衛星の軌道
天王星の自転軸(黄色)は天王星の軌道面に対して寝ており、衛星の回転も横倒しになっている(提供:京都大学)

天王星は元々、他の惑星のようにまっすぐ(直立して)回りながら誕生したが、後に地球の1~3倍の質量の天体が衝突して自転軸が傾いたという説が有力だ。その際に飛び散った破片が集まって衛星になったのだとすれば、衛星の軌道面も横倒しになっていることが説明できる。しかし、現実の衛星は全て合わせても質量が天王星の0.01%しかないのに対して、理論上は衝突の破片から誕生した衛星の質量は惑星の1%程度にならなければいけない。巨大衝突で生まれたことが有力視される地球の月はこの質量比に当てはまっている。

また、衝突の破片は惑星のすぐそばで集積するはずだ。月も元々地球に近かったが、45億年におよぶ地球との重力相互作用でだんだん遠ざかったと考えられている。天王星の衛星はどれも軽すぎてこのような作用は働かないが、それにもかかわらず天王星最大級の衛星は天王星半径の15~25倍という離れた位置にある。

衛星が誕生するシナリオとしては、巨大衝突説の他に円盤説が考えられる。誕生直後の惑星が周囲のガスを取り込む際に円盤を形成し、その中から衛星が生まれるというものだ。これなら衛星の総質量は惑星の0.01%となり、この説で誕生したと考えられる木星のガリレオ衛星は条件に当てはまっている。しかし、天王星は最初から横倒しで誕生したわけではないはずなので、衛星の軌道が横倒しであることは円盤説では説明できない。

天王星
天王星(提供:Lawrence Sromovsky、University of Wisconsin-Madison/W.M. Keck Observatory/NASA)

天王星は氷を主成分とする惑星であり、地球のような岩石惑星とも木星のようなガス惑星とも異なる。そのため、巨大衝突では固体の破片が飛び散るのではなく、水が完全に蒸発して水蒸気の円盤が形成されるはずだ。東京工業大学の井田茂さんたちの研究チームはこの点に注目し、この水蒸気円盤から衛星が形成される過程をコンピューターでシミュレーションした。

衝突により天王星の質量の1%が蒸発して円盤になったとすると、そのままでは水蒸気に熱がこもって固まることができない。水蒸気の99%が天王星に再吸収され、残りの円盤が天王星半径の10倍以上に広がったときにようやく氷が凝縮するという。1%の1%、つまり0.01%という数字は天王星の衛星の総質量と一致し、衛星の軌道が天王星から離れていることもこれで説明できる。

天王星の衛星の質量と軌道半径
天王星の衛星の質量と軌道半径について、実際の値とシミュレーション結果とを比較したグラフ(提供:京都大学)

天体の衝突で衛星が生まれるというシナリオは、一見すると地球の月が形成された過程と似ているが、岩石を主成分とする地球では飛び散った破片はすぐに凝縮するので、どのような巨大衝突が起こるのかが月の作られ方を左右する。一方、天王星のような氷天体で衛星が誕生するときには、最初の衝突だけではなく、円盤が冷えたり広がったりする過程も重要だということが今回の結果から示された。

このように、地球型惑星とも木星型惑星とも全く異なる衛星形成の理論モデルは、天王星と同じような氷惑星に一般的に適用できる標準モデルとなり得るという。太陽系の海王星だけでなく、地球の数倍の質量を持ち岩石や氷からなると予想される「スーパーアース」に分類される太陽系外の惑星についても、同様の推論が成り立つだろう。