金星大気のスーパーローテーションの長期変動を再現

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データ同化システムを用いた研究で、金星の大気が自転より速く周回する「スーパーローテーション」の長期的な風速の変動が再現され、観測のない高度も含めた大気の3次元構造が推定された。

【2026年10月28日 慶應義塾大学】

金星の雲頂付近の大気は、自転の最大60倍もの速さで惑星を周回している。この「スーパーローテーション」については、日本の金星探査機「あかつき」の観測などから、大気中の波が高速の風を保つ役割を果たすことや、雲頂付近の風速が長期的に変化し、北半球と南半球でも異なることがわかってきた。

金星探査機「あかつき」の紫外線観測データから作成された、金星の擬似カラーアニメーション(提供:PLANET-C)

しかし、金星は厚い硫酸の雲に覆われているため、雲より下の大気を直接観測するのは難しい。また、探査機の観測で得られる時刻や場所は限られる。こうした断片的なデータから、各時期の大気の状態を継続的に推定することが課題となっている。

慶應義塾大学の藤澤由貴子さんと杉本憲彦さんを中心とする研究チームは、地球の天気予報で使われる「データ同化」を金星に応用した研究を進めている。この手法は、実際の観測データと数値モデルによる計算を組み合わせ、観測できていない場所や時刻も含めて状態を推定するというものだ。研究チームは、スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」で動く金星大気大循環モデルと観測データを取り込む手法を組み合わせたシステムを開発したほか、2018年9~12月の「あかつき」の観測データと計算を統合して推定した大気の状態から、データセットを作成し公開している。

今回、研究チームは2017~2022年のうち風速の異なる5つの期間(速い2期間、中間の1期間、遅い2期間)を対象に、それぞれ約6か月間の同化実験を実施した。これによって雲頂付近の風を再現するとともに、観測のない高度も含めた大気の立体的な構造に、観測データの取り込みがどう影響するかを調べた。

その結果、観測を取り込まない計算で過大になっていた風速が抑えられ、観測とのずれが約7~8割減り、各期間で観測に近い風速分布が得られた。また、風速の遅い2期間では観測で見られた北半球と南半球の東西風の大きな差が再現された(下図a)。

南北方向の断面で見た大気の循環(子午面循環)については、観測を取り込む高度をまたいで下層から上層まで広がる循環セル(同図の星印)が、5期間全てで強まった(同図b、c)。この強まりは、風速の遅い2期間では速い2期間に比べて大きく、南北で違いも見られた。

雲頂の東西風と子午面循環の比較
雲頂の東西風と子午面循環の比較(計算結果は各期間の117地球日間平均)。
(a)雲頂付近の東西風の緯度分布(昼側の平均)。黒破線:風の遅い時期(S1)の観測値、灰色実線:観測を取り込まない計算(FR)、橙色実線:S1の同化実験の結果。
(b)FRと(c)S1の子午面循環。灰色の線は循環の強さと向きを表し、実線は図中で時計回り、破線は反時計回りの循環。(c)の色はS1とFRの差。星印は本文で取り上げた循環セル、緑線は観測を取り込んだ高度と緯度の範囲を示す(提供:Fujisawa et al. 2026、一部改変)

さらに、太陽の熱によって生じる大気の波「熱潮汐波」にも期間ごとの違いが見られ、とくに赤道付近では、その場所の時刻(地方時)に応じた風速の変化が「あかつき」の観測に近づいた。

観測データを取り込む際に計算へ直接加える修正は、主に雲頂付近に限られる。一方、循環の変化はより広い高度に及んでおり、雲頂の風の修正に対するモデル大気の力学的な応答が関係していると考えられる。また、観測データの取り込みを止めた後も、観測を取り込まない計算との差は約1か月続き、観測の影響がモデルの大気状態に一定期間残ることを示唆する結果も得られている。ただし、観測のない高度の構造はモデルに基づく推定であり、その妥当性の検証や、循環が変化する仕組みの解明は今後の課題となる。

今回の研究は、観測データが時間的・空間的に非常に限られる惑星探査において、データ同化が観測とモデルの双方の強みを引き出し、大気の3次元構造を推定する有力な手段となることを示した。将来の探査計画の検討や、地球以外の惑星の大気環境を理解するために、限られた観測データを活用する手法の発展につながると期待される。

今回の研究の概念図
今回の研究の概念図。雲頂付近・昼側の断片的な観測を数値モデルに取り込み、各時期の雲頂の風を再現するとともに、観測のない高度も含めた大気の3次元構造を推定する。画像クリックで表示拡大(提供:プレスリリース)