天の川銀河最強の宇宙線源、初めて候補を発見

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宇宙線を極めて高いエネルギーまで加速させる天体「ペバトロン」の初めての候補として、超新星残骸「G106.3+2.7」が同定された。

【2021年3月9日 東京大学宇宙線研究所

地球の大気へ高速で飛来する宇宙線(陽子やヘリウムなどの原子核)は、109~1020eV(電子ボルト)と様々な強さのエネルギーを持っている。これらの粒子にエネルギーを与えて加速させている天体がどこかにあるはずだが、その全容はまだ解明できていない。宇宙線は電荷を持つため、天の川銀河内の磁場によって進路を曲げられてしまい、起源をたどるのが難しいからだ。

中でも宇宙線を1PeV(1ペタ電子ボルト=1015電子ボルト)の領域にまで加速する天体は「ぺバトロン」と呼ばれ、捜索が続けられていたが、その候補天体が初めて見つかった。

この成果を発表したのは日中共同の研究グループだ。研究グループは中国チベット自治区の標高4300mの高原にある「チベット空気シャワー観測装置」により超高エネルギー宇宙線・ガンマ線を観測する「チベットASγ(エー・エス・ガンマ)実験」を1990年から続けてきた。空気シャワーとは、高いエネルギーを持つ宇宙線やガンマ線が大気上層の原子核に衝突して新たな粒子を生み、その粒子が連鎖的に新しい粒子を生んでシャワー状に降り注ぐ現象のことである。この粒子を碁盤の目状に配置した粒子検出装置でとらえ、元の宇宙線やガンマ線の強さと来た方向を決定する。

チベット空気シャワーアレイ
チベット空気シャワーアレイ(提供:チベットASγ実験グループ、以下同)

ペバトロン候補天体を同定する上での決め手となったのは、宇宙線そのものではなくガンマ線だ。加速された宇宙線が分子雲などのガスと衝突すると、宇宙線の1割程度のエネルギーを持つガンマ線が放出される可能性がある。ガンマ線は磁場の影響を受けずに直進するので、起源を見つけやすい。そこで、1PeVの1割である100TeV(テラ電子ボルト)以上のガンマ線を探すことでペバトロンを同定できると期待される。

ただし、ガンマ線を放つ天体としては超新星爆発後に残されるパルサーもあるので、これと重なっていないことも確認しなければならない。これらの条件を全て満たすペバトロン候補天体はこれまで見つかっていなかった。

研究グループは100TeV以上のガンマ線を効率よく検出するための装置を開発し、2014年から観測を開始したところ、地球から約2600光年の距離にあるケフェウス座方向の超新星残骸「G106.3+2.7」から100TeVを超えるガンマ線が届いているのが見つかった。また、G106.3+2.7ではガンマ線の放射領域が分子雲の位置とよく合っており、分子雲の北東に位置するパルサーから離れていることも示された。つまり、G106.3+2.7はペバトロンが満たすべき条件を全て備えた、候補天体の第1号と言える。

G106.3+2.7方向のガンマ線像
チベット空気シャワー観測装置で見た超新星残骸「G106.3+2.7」方向の10TeV以上のガンマ線。黒の等高線は超新星残骸の外殻、水色の等高線は分子雲の分布、灰色の◇はパルサーの位置を示す。赤の☆(統計誤差を示す円付き)の位置がチベット空気シャワー観測装置で観測されたガンマ線放射領域の中心、他の記号は他の望遠鏡や実験による中心位置

研究グループは今後、天の川銀河の中心方向も観測できる南半球にも同様の観測装置を建設して、宇宙線の起源解明に取り組みたいとしている。

G106.3+2.7の想像図
ペバトロン候補天体、超新星残骸G106.3+2.7の想像図。黄色い点は、宇宙線が分子雲のガスと衝突し、ガンマ線が放射されている様子を表している(提供:東京大学宇宙線研究所 / 若林菜穂)

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