新種の超新星残骸か、XRISMが明かしたW49Bの3次元構造

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日本のX線分光撮像衛星「XRISM」によって、特異な形をした超新星残骸「W49B」が双極状に物質が広がる構造を持つことが示された。この天体は新種の超新星残骸かもしれない。

【2025年8月19日 JAXA宇宙科学研究所

生命を構成する炭素や酸素、カルシウム、鉄などの元素は、主に恒星での核融合反応で作られ、超新星爆発で宇宙空間にまき散らされる。爆発の衝撃波は周りのガスを圧縮して、次の世代の星を生み出す働きもする。超新星爆発は宇宙の化学進化を司り、生命の材料も生み出す重要な天体現象だ。

超新星爆発で放出された物質は「超新星残骸」となり、1万年以上にわたってX線を放射するので、X線観測によって元素の種類や運動を知ることができる。

わし座の方向約3万光年の距離にある「W49B」は約5000年前に爆発したと推定される超新星残骸で、一般的な球形の超新星残骸とは違い、鉄などの重元素が中心部に棒状に集まっている。この棒状の形が爆発に由来するのか、それとも爆発後に残骸が宇宙空間に広がる過程で形づくられたのかは、長らく不明だった。

超新星残骸W49B
超新星残骸W49B。チャンドラX線天文台が撮影したX線画像(青・緑)、VLAが観測した電波画像(ピンク)、パロマー天文台で撮影された赤外線画像(黄色)を合成した擬似カラー画像(提供:X-ray: NASA/CXC/MIT/L.Lopez et al; Infrared: Palomar; Radio: NSF/NRAO/VLA

2024年4月下旬から5月上旬、日本のX線分光撮像衛星「XRISM」の初期性能検証観測の期間に、このW49BがXRISMの軟X線分光装置「Resolve」で観測され、W49Bを作った超新星爆発で放出された重元素の種類と量、運動速度がきわめて正確に測定された。

解析の結果、鉄が発する特性X線のスペクトルから、鉄が±300km/sの速度で運動していることが確認され、残骸の東側では重元素が地球に近づき、西側では遠ざかる向きに動いていることがわかった。これは、残骸の中心から物質が東西に双極状に吹き出したことを示している。W49Bの構造についてはこれまで、円盤状の残骸を横から見ているという説もあったが、今回の観測結果から円盤モデルは棄却された。

W49Bのスペクトルと3次元構造
(上)XRISMの「Resolve」で得られたW49Bのスペクトル(青色の線)。6.7keV付近に鉄イオンが出すX線が見られる。「H-like」は電子を1個、「He-like」は電子を2個残して残り全てを失ったイオンの輝線を表す。数字はX線を放射する電子の軌道の違いを示している。灰色の線は過去に「すざく」で得られたスペクトル。(下)スペクトルのシフトからみちびかれる高温ガスの動きと、そこから推測されるガスの3次元構造。画像クリックで表示拡大(提供:JAXA)

XRISMが発見した双極状の構造は、たとえばガンマ線バーストのような、ジェットの放出を伴う激しい爆発で作られたのかもしれない。一方で、W49Bの重元素の組成は、ガンマ線バーストの元素合成理論から予想されるものとは大きく異なっている。W49Bは新種の超新星爆発の残骸かもしれず、星の進化や超新星爆発の理論を見直す必要もありそうだ。

W49Bのガスの視線速度、モデル
(上)W49Bの視線方向の高温ガスの動き。青は地球に近づき、赤は遠ざかっている。(下)左はこれまで考えられていたW49Bの構造。円盤またはドーナツ状のガスが広がる姿を横から見ていると推定されていた。右は今回の結果から示唆される構造。双極状に吹き出したガスを横から見ている。画像クリックで表示拡大(提供:JAXA, X-ray: NASA/CXC/MIT/L.Lopez et al.; Infrared: Palomar; Radio: NSF/NRAO/VLA)

W49Bの想像図
W49Bの想像図。XRISM(X線)、VLA(電波)、パロマー天文台(赤外線)の観測結果を参考に作成(提供:JAXA)

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