超新星残骸から「星の死に際の瞬間」の情報が得られた
【2025年9月5日 明治大学】
大質量星の一生の最期に起こる超新星爆発は、天文ファンの観察対象としても天文学研究のターゲットとしても魅力的で重要な現象だ。しかし、爆発がいつ、どこで起こるかを正確に予測することは難しい。たとえば、オリオン座の赤色超巨星ベテルギウスは(天文学的な時間スケールで)間もなく超新星爆発を起こすとみられているが、その時期はおよそ10万年以上先としか予測できていない(参照:「ベテルギウスの爆発は10万年以上先になりそう」)。
爆発の予測が難しいのは、星の光を観測するだけでは恒星内部の情報を引き出すのが難しく、核融合反応の進行度のような情報がわからないためだ。近年のスーパーコンピューターによるシミュレーション研究によると、星の最期の内部進化はとても激しいと予測されているが、恒星内部は「未観測領域」であるため、シミュレーション結果の検証のためにも新たな観測手法が望まれていた。
明治大学の佐藤寿紀さんたちの研究チームは、星の死後に残る「超新星残骸」に着目した。大質量星は進化の最終段階で、中心領域に密度の高い“コア”を形成する。通常の観測では外層に取り囲まれたコアの情報を引き出すことはできないが、星が爆発してコアの物質が周囲にばら撒かれれば、そこから内部の情報を引き出せるはずだというアイディアだ。
佐藤さんたちは、超新星残骸「カシオペヤ座A」のX線観測データから、内部コアで形成された異なる元素が不均一に混じり合っていることを発見した。解析の結果、この混合状態は、爆発直前に恒星内部で起こった激しい破壊現象によるものだと結論づけられた。
NASAのX線観測衛星「チャンドラ」によるカシオペヤ座AのX線画像(擬似カラー)。三色の混合具合の違いが爆発前の恒星の激しい核燃焼過程で形成されたと考えられる(提供: X-ray: NASA/CXC/Meiji Univ./T. Sato et al.)
星は核融合反応によって元素を合成し、中心から鉄、ケイ素、酸素、…というように複数の層を持つ「玉ねぎ構造」を形成すると考えられている(参照:「爆発直前に「骨」までむき出しになった超新星」)。近年の理論計算で、星が死ぬ直前に起こる激しい核融合反応によってこの玉ねぎ構造を破壊するような現象が起こると予言されていたが、今回の研究は実際にその破壊が起こったことの裏付けとなるものだ。
理論予測による死に際の大質量星の内部における「破壊的核燃焼」。(左)大質量星は最終段階で超巨星に進化し、中心に“コア”を形成する。(右)コア内部での激しい核融合反応により、大規模な対流構造が生まれる(提供:明治大学リリース)
不均一な元素の混合は、星の爆発のわずか数時間前に破壊現象が起こったことを示唆するもので、まさに星の「死に際の瞬間」をとらえた結果と言える。未観測領域である恒星内部の情報の引き出しに成功した初の研究成果である。
今回明らかになった激しい恒星内部の活動は、星の爆発を助けることが近年の研究で示唆されている。一方で、全ての大質量星が超新星として爆発するとは限らず、一部の星は、潰れてブラックホールになる。恒星の内部活動は、最期に星が超新星として華々しく輝くか、もしくはブラックホールとして潰れて静かに一生を遂げるのか、星の運命を決定しているのかもしれない。
〈参照〉
- 明治大学:星の死に際の“破壊的核燃焼”を明らかに~超新星残骸から爆発直前の激しい核燃焼過程の観測的証拠を掴む~
- Chandra:NASA's Chandra Reveals Star's Inner Conflict Before Explosion
- The Astrophysical Journal:Inhomogeneous Stellar Mixing in the Final Hours before the Cassiopeia A Supernova 論文
〈関連リンク〉
- Chandra X-ray Observatory:
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:超新星残骸
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