太陽系が誕生したころの記憶を残す隕石
【2020年11月17日 国立極地研究所】
隕石として地球に落下してくるような小天体のうち「コンドライト」と呼ばれるものは、熱による溶解を経験しておらず岩石質と金属質とが分かれていない隕石である。中でも蒸発しやすい成分を多く含む「炭素質コンドライト」は、46憶年前に太陽系が誕生してからこれまでに高温を経験したことがない、「始原的」な物質だと考えられる。
このような炭素質コンドライトの中で一番数が多い「CMコンドライト」は熱変成の痕跡が少ない一方、水分が比較的多く含まれており、その水による変質作用を受けている。
国立極地研究所の木村眞さんたちの研究グループは、日本の第54次南極地域観測隊とベルギー南極観測隊の探査で2012~2013年に採取された3つの隕石「Asuka 12085, 12169, 12236」を分析し、これらがCMコンドライトに分類されるものの、水による変質作用をほとんど受けていないことを明らかにした。いずれも、これまでに知られていたCMコンドライトよりも変成の度合いが少なく、最も始原的なCMコンドライトとみられている。
裸氷上のAsuka 12236(提供:国立極地研究所リリース))
CMコンドライトに含まれるコンドルール(マグネシウムに富む珪酸塩鉱物から構成される球粒)やマトリックス(微細な物質の集合体)は、原始太陽系星雲内での生成物であり、その形成に関わる条件や環境は、その後の変化を免れたものからしか調べることができない。最も始原的と考えられる今回の3つのCMコンドライトは、太陽系誕生当時にどのような物質が存在し、それらがどのようなプロセスを経たかを解き明かす最良の試料になると考えられる。
今後の研究により、太陽系初期の特徴やそのころに存在していた物質がどのようなものであったかに関する貴重な情報が得られると期待される。探査機「はやぶさ2」が12月6日に地球へ持ち帰る予定の小惑星「リュウグウ」の試料から、今回のCMコンドライトのような岩片が発見される可能性もあり、両試料の比較検討から、太陽系初期の物質や小惑星の形成環境に関する知見が得られることも期待される。
〈参照〉
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