原始太陽系に降りそそいだ、“溶けた岩石の雨粒”
【2025年9月2日 名古屋大学】
地球に落下する隕石の多くには「コンドリュール」と呼ばれる直径0.1~2mmの球状の粒子が含まれている。コンドリュールは岩石が何らかの原因で加熱されて融け、細かく分裂し、表面張力で丸く固まったものと考えられている。コンドリュールの内部組織の分析から、その冷却速度は1時間あたり10~1000度で、作られた年代は太陽系の形成が始まってから100~300万年後と推定されている。
隕石によっては体積の8割以上をコンドリュールが占めるものもあり、コンドリュールのできた年代や多くの隕石の主成分となっていることから、惑星が誕生した時代の太陽系で頻繁に起こっていたイベントがコンドリュールを生み出したと考えられる。しかし、具体的にどんな現象がコンドリュールを作ったのかはわかっていなかった。
コンドリュールの例。隕石の切片に見られるコンドリュールの顕微鏡画像(提供:Bérczi Szaniszló / CC BY SA 3.0)
名古屋大学の城野信一さんたちの研究チームは、コンドリュールを生み出したイベントを明らかにする上で、木星の形成に着目した。木星の質量は非常に大きいため、ひとたび木星が形成されると、周囲にある微惑星(惑星の元となる直径100~1000km程度の小天体)の軌道が大きく変化する。そのために微惑星どうしは高速で衝突するようになり、岩石が溶融して飛び散る。城野さんたちはその様子を数値シミュレーションし、衝突が発生する時期と生成される溶融岩石の量を求めた。
その結果、太陽系の形成開始から約180万年後に溶融岩石が最も多く生み出されることが明らかになった。溶融岩石はその前後100万年ほどの間に生成され、それらが細かく分裂してできたコンドリュールが原始太陽系に雨のように降ったことが示された。この結果は隕石の分析からわかっているコンドリュールの形成年代の分布とも良く合っている。
また、微惑星には水や有機物などの揮発性物質が含まれていて、微惑星どうしが高速で衝突すると水は加熱されて水蒸気となり、急膨張して溶融岩石を分裂・冷却させる。城野さんたちがこの膨張を様々な条件でシミュレーションしたところ、分裂後の粒子の直径と冷却速度が、コンドリュールのサイズや冷却速度をよく再現することがわかった。
(上)木星の形成に伴う微惑星の高速衝突、(下)水蒸気の膨張による溶融岩石の分裂と冷却。画像クリックで表示拡大(提供:名古屋大学リリース)
今回の研究から、木星の形成と水の存在が鍵となって、惑星の形成過程で必ず発生する微惑星衝突の必然的な副産物として、コンドリュールが形成されることが示された。
今回明らかになったコンドリュールの大きさ・冷却速度と、衝突する微惑星の大きさ・衝突速度との間の関係から、コンドリュールを生み出す微惑星の大きさと衝突速度に制限を付けることができる。今後、様々な年代のコンドリュールを解析することで、時代とともに微惑星の大きさと衝突速度がどう変化したかなど、太陽系の惑星形成の歴史に迫れるかもしれない。
〈参照〉
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