隕石の有機物が物語る過去の火星環境

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火星から飛来したと推定され、2011年にモロッコの砂漠に落下した「ティシント隕石」から多様な有機物が検出された。そこからは昔の火星における地質活動の様子が読み取れる。

【2023年1月18日 カーネギー研究所

これまでに地球で見つかった隕石のうち、火星に起源を持つと推定されるものは200個を超えるが、そのうち地上に落下する様子が観測されたものは5つしかない。2011年7月18日にモロッコに落下した「ティシント隕石」はその一つで、名前の由来となった町から約50km離れた砂漠のあちこちで破片が見つかった。

ティシント隕石の起源は、何億年も前に火星で形成された岩石で、天体の衝突によって火星を飛び出し地球へ飛来したのだと推測される。独・ミュンヘン工科大学のPhilippe Schmitt-Kopplinさんたちの研究チームはこの隕石を分析し、多種多様な有機化合物が含まれていることを発見した。こうした有機物は生物とは無関係な化学反応でも合成できることがわかっているが、それでも火星の過去を理解し、そこに生命がいたかどうかを知る重要な手がかりには違いない。

「火星と地球の進化は、多くの点で似ています。地球上では生命が誕生して繁栄しましたが、一方の火星で生命が存在したのかという疑問は多くの人々が関心を寄せる研究テーマです。それに取り組むには、あちらの惑星における水や有機分子、そして地表での反応に関する深い知識が必要です」(Schmitt-Kopplinさん)。

ティシント隕石
ティシント隕石(提供:Natural History Museum Vienna, Ludovic Ferriere)

Schmitt-Kopplinさんたちがティシント隕石に含まれる全ての有機物をまとめたカタログは、これまで他の隕石の分析や探査機の現地での調査にもとづくどの報告と比べても、包括的なものだ。研究チームは有機物を通じて火星のマントルや地殻における活動、とくに水と岩の反応を解き明かした。

とりわけ興味深いのは、これまで火星で見つかっていなかった有機マグネシウム化合物が豊富に含まれていたことだ。このような有機分子群からは、火星の深部における高温高圧下の化学反応、惑星内における炭素の循環と鉱物の形成の関連について新たな洞察が得られる。

研究チームは、将来の探査で火星からサンプルが持ち帰られれば、現実の火星環境における有機化合物の形成・安定性・変化に関してこれまでにない量の情報が得られるだろうと期待する。