太陽とはまったく異なる、小さく冷たい怪物天体

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太陽の10分の1以下の質量しかない暗く冷たい赤色矮星に、驚くほど強力な磁場が見つかった。この星からの放射は太陽の1万倍も強く、近くに惑星があったとしたら、星の強烈なフレア活動によって荷電粒子が絶えず降り注ぐ過酷な世界だという。

【2015年12月4日 アルマ望遠鏡

うしかい座の方向35光年の距離に位置する赤色矮星「TVLM 513-46546」は、質量が太陽の10%しかない非常に小さく冷たい星で、水素が核融合して輝く「星」と核融合していない褐色矮星のちょうど境界線に分類される天体である。また、自転周期がわずか2時間(太陽の場合は赤道付近で約25日)という特徴もある。

赤色矮星「TVLM 513-46546」の想像図
赤色矮星「TVLM 513-46546」の想像図(提供:Dana Berry (NRAO/AUI/NSF) / SkyWorks)

アメリカ国立電波天文台のカール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)による以前の観測で、この星が太陽の最も強力な磁場に匹敵する磁場を持ち、それは太陽の平均的な磁場より数百倍強いことがわかっていた。しかし太陽で磁場を発生させる物理的プロセスはこのように小さな星では起こりえないため、研究者の頭を悩ませていた。

「磁力的にいうと、この星は私たちの太陽とは全く異なる『怪物』なんです」(ハーバード・スミソニアン天体物理センター Edo Bergerさん)。

ハーバード・スミソニアン天体物理センターのPeter Williamsさんらの研究チームはアルマ望遠鏡でこの星を観測し、95GHzという特に高い周波数(波長にすると約3mm)の電波を検出した。赤色矮星において、フレアで発生するような電波がこれほど高い周波数で検出されたのは初めてのことであり。さらにこのような星がミリ波で検出されたのも初となる。

こうした電波信号は、シンクロトロン放射と呼ばれる過程で発生するものだ。シンクロトロン放射は、電子が強力な磁力線の周りを勢いよく進むときに出る放射で、磁場が強力であるほど電波の周波数は高くなる。星のフレアは磁力線に絡みつくように発生し、磁力線はまるで粒子加速器のように働き、電子が軌道をゆがめられることで電波の信号を発する。アルマはその電波をとらえたのである。

太陽フレアでも似た放射が見られるが、それは瞬間的なものだ。一方、この星は太陽の10分の1以下の質量しかないにもかかわらず、その放射は太陽の1万倍も強い。アルマがたった4時間の観測で放射を検出したことからも、この赤色矮星は途切れることなく活動しているといえる。

今回の結果は、生き物が生存しうる太陽系外惑星の探査と重要で密接な関係がある。天の川銀河内で赤色矮星は最も典型的な星なので、今後の系外惑星探しのターゲットとなる。その赤色矮星は太陽よりずっと低温であるため、惑星が表面に液体の水をたたえるほど暖かくなるには星のすぐ近くを公転しなければならない。しかし、そのように近いところでは星からの強烈な放射を受けることになり、惑星の表面で大気がはぎ取られたり、強烈なフレア活動で荷電粒子が惑星に絶えず降り注いで複雑な分子が破壊されてしまったりすると推測されるのだ。

「もし私たちがこのような星の近くにいたとしたら、衛星通信は一切できないでしょう。もっとも、そのような荒れ狂う環境で生き物が進化していくのは非常に困難だと思います」(Williamsさん)。

研究チームでは将来的に似ている星を研究し、今回の星が珍しい変わった星なのか、それとも嵐のような星の仲間の一例にすぎないのかを調べる予定だ。

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