銀河は星を育てるガスを外から受け取っていた

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アルマ望遠鏡による近傍銀河の観測で、速度の大きな分子ガス雲が複数見つかった。星形成の材料となる高密度の分子ガスが銀河外から流入している証拠となる。

【2025年7月8日 東京大学大学院理学系研究科

銀河は主に星とガスからできており、ガスから星が作られる星形成活動によって進化する。私たちの天の川銀河では、もし外部からガスの供給がなければ、約10億年で銀河内のガスが使い尽くされて星形成が止まるはずだが、実際には100億年以上も星形成が続いている。これは銀河の外から絶えずガスが流れ込んでいることを示唆している。

銀河外から来たガスの有力候補とされるのが、銀河回転とは違った速度で運動している「高速度雲」と呼ばれるガス雲だ。高速度雲は銀河外から直接流れ込んだガスであるという説があるが、一方で、銀河内部の超新星爆発で一度外へ吹き飛ばされたガスが重力で再び降ってきたものだという説もある。

高速度雲はこれまで、中性水素(HI)ガスを観測することで研究されてきた。HIガスは星の材料となる高密度の分子ガスの前段階にある物質だ。だが、天の川銀河にはHIガスが広く分布しているため、銀河内にある地球からHIガス雲までの距離を正確に測るのは難しく、物理的性質や空間的な位置は必ずしもよくわかっていない。

東京大学の長田真季さんたちの研究チームは、うみへび座の方向約1500万光年の距離にあり、地球にほぼ正面を向けている棒渦巻銀河「M83」を研究対象に選び、アルマ望遠鏡で得られたこの銀河の一酸化炭素(CO)分子ガスのデータを解析した。その結果、COガスの高速度雲が10個見つかった。分子ガスの高速度雲が見つかるのは珍しい。

M83銀河の高速度雲のイメージイラスト
M83銀河で同定された高速度雲のイメージイラスト(提供:ChatGPT/DALL·E)

見つかった高速度雲は速度がかなり大きく、銀河に重力的に束縛されていない可能性が高い。また、既知の超新星残骸や大規模な星形成領域の位置ともあまり関連はみられなかった。さらに、個々の高速度雲の運動エネルギーが1051-52エルグもあり、1回の超新星爆発で吹き飛ばされたものと考えるには大きすぎることもわかった。

CO分子ガスの分布と高速度雲のスペクトル
(a)ヨーロッパ南天天文台で撮影されたM83の可視光線画像。(b)アルマ望遠鏡で得られたCO分子の分布。黒い部分ほどCO分子ガスが多い。マゼンタ色と水色の楕円は、銀河円盤の回転速度より±50km/s以上大きな速度を持つ高速度雲の位置と大きさを表す。(c)矢印で示した高速度雲の電波画像。赤い部分ほど分子ガスが多い。白い破線の楕円が(b)の楕円と同じ高速度雲の大きさを示す。(d)この高速度雲の範囲内で平均したCO分子の輝線スペクトル。左の緑のピークが銀河円盤ガスの速度、右の赤のピークが高速度雲の速度(提供:(a)ESO、(b)~(d)東京大学リリース)

こうした結果から、今回見つかった高速度雲は超新星爆発で吹き飛ばされて戻ってきたものというよりは、銀河の外から流入してきた可能性が高いという。

M83は星やガスの運動の中心が銀河中心核からずれていることが知られていて、周囲の銀河と過去に接近や合体をした痕跡だと考えられている。今回見つかった高速度雲も、過去に起こった他の銀河との相互作用で降ってきたものかもしれない。

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