地上と宇宙の望遠鏡が共同、赤色矮星を周回する褐色矮星を発見
【2025年10月28日 すばる望遠鏡】
褐色矮星は恒星と惑星の中間的な天体で、その数や質量を調べることは、惑星と恒星がどのように形成されるのかを理解するうえで重要である。褐色矮星は普通の恒星と連星系を成す伴星として見つかることがあり、天の川銀河の恒星のうち半数以上を占める、太陽よりも小さく冷たい「M型星(赤色矮星)」の周囲にも存在している。しかし、M型星は非常に暗く観測が難しいため、その周囲にどのくらいの割合で褐色矮星が存在するかは明らかになっていない。
アストロバイオロジーセンターの鵜山太智さんたちの研究チームは、うしかい座の方向、約55光年の距離にあるM型星「LSPM J1446+4633」(以下 J1446)を観測し、その周囲を回る褐色矮星「J1446 B」を発見した。

ケック望遠鏡がとらえた褐色矮星J1446 B(矢印先の点)の赤外線画像。中心の赤色矮星(J1446)は画像解析で白色にマスクされている(提供:鵜山太智 (アストロバイオロジーセンター/CSUN) / W. M. Keck Observatory)
発見の鍵となったのは、米・ハワイのすばる望遠鏡の赤外線分光装置「IRD」による約6年間分の視線速度測定と、同じくハワイのW. M. ケック望遠鏡による伴星の直接撮影、さらに位置天文衛星「ガイア」による精密な位置測定の組み合わせだ。これら3種類の観測手法によるデータを総合的に解析した結果、褐色矮星の質量と軌道が高い精度で決定された。

J1446 Bの軌道解析の結果。(左)ケック望遠鏡の直接撮像結果(右上の青い丸)と「ガイア」の固有運動加速(赤矢印)から推測された伴星の軌道。黒の曲線は最も可能性が高い軌道、色付きの曲線は可能性のある他の軌道を示し、色の違いはその軌道に対応するJ1446 Bの質量を表す。(右)すばる望遠鏡の観測(赤点)から推測された主星の視線速度の変動。推測された軌道や視線速度の軌跡はシミュレーション上の伴星の質量で色付けされている。下パネルはフィッティングの速度誤差(提供:Qier An (UCSB) / Uyama et al. (2025))
褐色矮星J1446 Bは、質量が木星の約60倍で、太陽から地球の4.3倍の距離を約20年の周期で公転している。興味深いのは赤外線波長で約30%の明るさの変動が確認されたことで、J1446 Bの天候の変化を反映している可能性があるという。今後の観測で雲の分布や大気の循環を調べれば、天候図を描くこともできるかもしれない。「褐色矮星の天気を調べることは、大気がどのように形成されるかを理解する手がかりになるだけでなく、太陽系外の生命が存在しうる惑星を探す上でも重要な情報を与えてくれます」(鵜山さん)。
〈参照〉
- すばる望遠鏡:地上と宇宙の望遠鏡の共演で発見された、赤色矮星を周回する褐色矮星
- W. M. Keck Observatory:Discovery of Brown Dwarf Companion Provides New Insight into Stellar and Planetary Formation and Evolution
- The Astronomical Journal:Direct Imaging Explorations for Companions from the Subaru/IRD Strategic Program II; Discovery of a Brown-dwarf Companion around a nearby Mid-M-dwarf LSPM J1446+4633 論文
〈関連リンク〉
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