メタノールメーザー観測が示す、大質量星形成領域の複雑な磁場の兆候

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電波望遠鏡によるメタノールメーザーの長期観測から、大質量星形成領域の多数の天体でゼーマン分裂が検出された。一部の天体では、原始星を回転する円盤の影響で磁場がねじられ、複雑な磁場構造が形成されている可能性が示された。

【2026年11月6日 茨城大学理学部附属宇宙科学教育研究センター】

太陽の8倍以上の質量を持つ大質量星は周囲の環境に大きな影響を与えるため、銀河の進化を理解するうえで非常に重要な天体だ。大質量星が生まれる領域の磁場は、星のたまごである分子雲コアを重力収縮に抗して支えたり、原始星から噴き出すアウトフロー(幅の広いガス流)やジェット(細く絞られたガス流)を駆動したりするなど、星の誕生や成長に大きな役割を果たしていると考えられている。しかし、磁場の検出には高感度の観測が必要なため、磁場の強さはまだよくわかっていない。

原始星から噴き出すアウトフローとジェットの想像図
原始星から噴き出すアウトフローとジェットの想像図(提供:国立天文台)

大質量星の誕生場所の探査においては、メタノールから放射されるメーザーが「天然の電波ビーコン」として働き、星がどこで生まれているのかを突き止める重要な目印となる。2つのタイプがあるメタノールメーザーのうち、I型は原始星から少し離れた衝撃波が発生している場所で輝くメーザーで、星形成領域のダイナミックなガスの運動(噴出)をとらえるのに適している。一方、II型は原始星のすぐ近くの強い光(赤外線)を浴びる場所で輝くメーザーで、原始星周囲の円盤構造や、原始星近傍の磁場環境の調査に役立つ。

茨城大学が運用する日立32m電波望遠鏡では、原始星近傍から放射されると考えられている6.7GHzのII型メタノールメーザーを2013年から観測している。2017年から2022年にかけては、左回りと右回りの円偏光を同時に観測していた。この左右の円偏光のスペクトルは、磁場によるゼーマン効果で周波数がわずかにずれ、そのずれ(ゼーマン分裂)の大きさは磁場の視線方向成分の強さに比例する。ゼーマン分裂の観測から宇宙の磁場を直接測定することができるが、メタノールは磁場への応答が弱く、6.7GHzメタノールメーザーではずれが非常に小さいため、検出は容易ではない。

円偏光のイメージ図
左手前に進行する円偏光のイメージ図。青い矢印は電場、赤線は電場の振動を示す(提供:国立天文台)

茨城大学の森泉怜さんを中心とする研究チームは、5年間の観測で得られた左右の円偏光モードのスペクトルをそれぞれ平均してノイズの非常に小さいスペクトルを求め、両方の平均スペクトルの類似性を表す「相関関数」を計算する手法を用いて、ゼーマン分裂の検出を行った。

その結果、メタノールメーザーを十分な明るさで検出できた103天体のうち、62天体でゼーマン分裂の検出に成功した。そのうち38天体では、ゼーマン分裂が初めて検出された。また、一部の天体では、異なる放射領域の間でゼーマン分裂の大きさが顕著に異なることが明らかになった。

さらに、いて座の方向にある大質量原始星「G06.795-0.257」では、異なる位置にあり、かつ異なる方向に運動する領域の間で、ゼーマン分裂の符号が異なっていた。ゼーマン分裂係数(ゼーマン分裂の大きさを磁場の強さに換算する係数)を用いて磁場に換算すると、磁場の視線方向成分の符号も異なることになる。複数の成分で磁場が検出されたほかの天体でも、成分ごとに符号や強さが異なる例が見られた。これらは、大質量原始星の周囲を回転する円盤の影響で磁場がねじられ、複雑な磁場構造が形成されている可能性を示唆する結果だ。

G06.795-0.257の解析結果
大質量原始星G06.795-0.257の解析結果。(左上)検出されたゼーマン分裂の大きさと、実験室分光(Takagi et al. 2021)で得られたゼーマン分裂係数を用いて換算した磁場の強さ。(左下)5年間の観測データを平均して得られたスペクトル。赤枠と青枠は、それぞれ右図の赤矢印と青矢印が指す領域に対応。(右)メタノールメーザーの放射領域の空間分布(Sugiyama et al. 2016)。メーザーは円盤から吹き出す円盤風から放射されていることが明らかになっている。この図から、異なる位置にあり、異なる方向に運動する領域の間で、ゼーマン分裂の符号が異なっていることがわかる。画像クリックで表示拡大(提供:Moriizumi et al.)

過去の理論化学的な研究では、超微細構造を考慮すると放射領域ごとにゼーマン分裂係数が異なりうるとする報告があり、磁場の強さや向きが同じでも、領域によってゼーマン分裂の大きさや符号が異なる可能性がある。したがって、本研究で検出されたゼーマン分裂から磁場の強さや構造を推定する際には、ゼーマン分裂係数に由来する不確定性を考慮する必要がある。

今後、研究チームは6.7GHzと同時に12.2GHzなど他の周波数のメタノールメーザーでもゼーマン分裂を検出し、実験と理論で求められたゼーマン分裂係数のどちらが観測結果をよりよく説明できるかを調べて、不確定性の解消を目指す。これにより、大質量原始星の周囲における磁場構造のさらなる解明が期待される。

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