太陽型星では大気の加熱メカニズムは普遍的

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太陽に近い質量の恒星では、表面よりも外側のコロナや彩層が高温になる現象が見られる。恒星の年齢や活動度によらず、この加熱を引き起こすのは表面の磁場を介したエネルギー輸送であることがわかった。

【2022年3月24日 JAXA宇宙科学研究所

太陽の表面温度は約6000度だが、その外に広がる大気はコロナで100万度以上、彩層で1万度もの高温に達する。超高温のガスからはX線や紫外線が放射され、それが惑星の大気をはぎとるなどの影響を及ぼす。こうした傾向は質量が太陽に近い他の恒星にも見られ、特に若い星では生じるX線と紫外線が強力になると考えられている。このことは、系外惑星に生命が居住できる可能性を検討する上で重要な意味を持つが、太陽のような星でコロナや彩層が加熱されるメカニズムは、十分には解明されていない。

「ひので」がとらえた太陽のX線像
太陽観測衛星「ひので」がとらえた太陽のX線像。X線を発するほどの超高温に加熱されたコロナが見える(提供:国立天文台/JAXA)

太陽の場合、表面の対流運動が磁力線を揺さぶることでエネルギーが上空に伝わり、コロナや彩層を加熱するという説が有力視されている。そこでJAXAの鳥海森さんたちの研究チームは、様々な太陽型星で表面の磁場とコロナや磁場の明るさの関係を調べ、太陽と比較した。

鳥海さんたちはまず、2010年5月から2020年2月までの約10年間にNASAの太陽観測衛星SDOが観測した太陽表面の磁束量(多いほど磁力線も増える)と、NASAの太陽放射線・気象実験衛星SORCEがとらえたX線や紫外線の輝線(コロナから彩層までの各部分が発している)の強さが、どのように変動していたかを調べた。その結果は、磁束量が増えるとコロナや彩層からの輝きも強くなることを示している。

太陽全体の磁束量と5つの輝線の強度
太陽の磁場とコロナ・彩層の日変動。(a)SDOが測定した太陽表面の磁束量、(b)SORCEが測定したコロナからのX線、(c)~(f)SORCEが測定した、太陽大気に含まれるイオンが温度に対応して発する紫外線。空白は主にSORCEの観測停止によるもの。画像クリックで表示拡大(提供:Toriumi & Airapetian, 2022、以下同)

日ごとに変動する磁束量の強さを横軸に、各輝線の強さを縦軸にとると、ほぼ一直線に集まる傾向がある。直線が寝ていれば、磁束量が増えても加熱されにくく、右上がりの傾きが大きければ加熱されやすいことを示す。上層にあるコロナの方が傾きが強く、彩層は効率が弱いことから、異なる加熱メカニズムが働いていることが示唆される。

続いて研究チームは、年齢が約5000万年から45億年で様々な活動度を示す太陽型星について、磁束量および輝線の強さを先行研究から調べた。その結果を太陽のデータで作ったグラフに重ねると、見事に同じ直線上に乗っていた。太陽以外の星についても、コロナや彩層が表面の磁場を介して加熱されていることを示す結果だ。

太陽観測データと恒星観測データの比較
太陽型星の磁束量(横軸)と各輝線の強さ(縦軸)の関係。色つきの点は太陽のデータ、◇は年齢が約5000万年から45億年の太陽型星のデータ。どの輝線でもデータは水色の直線に沿っているが、領域によってその方向きは異なる。画像クリックで拡大表示

以上の結果から、超高温ガスが加熱されるメカニズムには磁場が密接に関わっており、それが太陽と恒星において普遍的であることが初めて明らかになった。これらの超高温ガスは、X線・紫外線放射を通じて周囲の惑星に強い影響を与えるため、この研究成果は惑星・系外惑星の理解にもつながる重要なものと言える。