45年来の説を否定、極域が赤道より速く自転する星はなさそう

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「富岳」の高精度シミュレーションで、太陽に似た星の自転は「赤道の方が極より速い」状態が保たれ、逆の状態は実現しないことが示された。従来の理論を覆す結果だ。

【2026年3月3日 名古屋大学

太陽などの恒星は固体ではなくガス(プラズマ)の球体であるため、緯度によって自転周期が異なる「差動回転」をしている。太陽の自転周期は赤道付近では約25日だが、極付近ではやや遅い約34~35日周期となっている。このように、赤道付近の方が極付近よりも速い自転を「太陽型」、逆に極付近の方が赤道付近より速い自転を「反太陽型」の差動回転と呼んでいる。また、太陽の自転速度は約100億年の寿命の中で徐々に遅くなっていくと考えられている。

太陽の差動回転
太陽の差動回転のイラスト。緯度によって自転周期が異なっている(提供:NASA、一部改変)

これまでの数値シミュレーションでは、太陽や恒星が一生のある時期に、太陽型から反太陽型の差動回転に移り変わる可能性があることが示唆されてきた。恒星の差動回転は星の内部で生じる乱流によって維持されていると考えられるが、恒星の自転がだんだん遅くなると、自転が乱流を生み出したり強めたりする働きが弱まって、乱流の強さに特定の方向性がなくなり、差動回転の移り変わりが引き起こされる、と考えられてきたのだ。

だが今のところ、太陽に似たタイプの恒星で反太陽型の差動回転をしている確実な観測例は一つもない。一方、太陽型の差動回転をする星は、恒星の振動現象を調べる「星震学」などの手法によって、太陽だけでなく他の恒星でも実例が確認されている。中には、数値シミュレーションで反太陽型差動回転をするはずだと予想されるような自転速度を持つにもかかわらず、太陽型差動回転が観測されている恒星などもあって、星の差動回転をめぐっては45年以上にわたり、観測と理論の間に隔たりがあった。

名古屋大学宇宙地球環境研究所の堀田英之さんたちの研究チームは、スーパーコンピューター「富岳」を使い、太陽に似たタイプの恒星の内部をきわめて高い空間分解能で再現する数値シミュレーションを行った。堀田さんたちは、恒星内部を54億個以上のメッシュで表現する超大規模・超精密な磁気流体力学シミュレーションにより、星の内部の乱流などの効果で自発的に差動回転が生じる様子を再現した。

恒星内部の熱対流
シミュレーションで再現された恒星内部の熱対流の様子。赤が上昇、青が下降する流れを表す。左から、自転角速度が太陽の1倍・1/2倍・1/4倍の場合(提供:名古屋大学リリース、以下同)

堀田さんたちは、自転周期が太陽に近い25日程度の星だけでなく、年老いた太陽に対応する自転周期100日程度の恒星についてもシミュレーションを行った。従来の理論では、これほど自転が遅い恒星であれば反太陽型差動回転が起こるとされてきた。

計算の結果、いずれの場合も太陽型差動回転が保たれ、反太陽型に移り変わることはないという結果になった。これについて堀田さんたちは、計算の解像度の違いが大きく効いていると考えている。

差動回転のシミュレーション結果
数値シミュレーションによって得られた差動回転の様子。恒星を子午線で切った断面上の回転速度を表し、色が明るいほど速い。(a)~(c)の自転角速度は上図と同様。いずれの場合も、赤道付近が最も速い太陽型の差動回転しか現れなかった

従来の数値シミュレーションは解像度が低かったために磁場が散逸しやすく、差動回転を生む要因として磁場の役割は小さいと見なされていた。しかし、今回実現された高解像度のシミュレーションでは磁場が散逸することがなく、差動回転を生み出す上でむしろ磁場が大きな役割を果たし、年老いて自転が遅くなった星でも太陽型の差動回転が保たれる要因になっていることが明らかとなった。

恒星の差動回転の分布は、フレアや恒星風などの磁気活動とも深く結びついている。過去の研究では、星が老齢になって自転が遅くなると反太陽型の差動回転に変わるとともに、磁気活動が再び活発になると予想するものもあった。しかし今回の研究で、星の差動回転は年齢が経っても太陽型のまま保たれるとわかったことで、磁気活動も年齢とともに弱まる一方である可能性が高いことが示唆される。

今回の成果は、太陽のような恒星の磁気活動の進化や惑星系への影響を考える上で大きな意義を持つ。太陽系外で生命をはぐくむのに適した惑星が主星から受ける影響などを考える上でも、重要な情報を与えるかもしれない。

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