木星大気の長期変動は「ねじれ振動」に起因する可能性

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最新の探査などの知見を基にした理論計算と、データ科学的解析法を合わせた研究から、木星の大気変動の数年周期性が、惑星深部の磁気的な波動である「ねじれ振動」に起因する可能性が示された。

【2023年5月26日 神戸大学

木星に縞模様が存在することは17世紀から知られていて、それが常に変化していることも認識されてきた。しかし、そのような変化が規則的なのか、突発的なのかは、長らく明らかではなかった。

近年になり、数十年間にわたる赤外線画像の解析から、木星の南緯41度から北緯33度までの広範囲で4~9年周期で規則的に変動が起こっていることが明らかになった。この周期は、木星の1日の長さである約10時間に比べてはるかに長い。このように南北に広い範囲で数年周期で起こる、いわば「気候変動」の成因には諸説あるが、定量的に説明できる説は皆無だった。

木星大気の長期変動
赤外線画像にとらえられた木星大気の長期変動。(a)2011年12月撮像、(b)2001年5月撮像。青い点線は北赤道縞(北緯7~21度)を示しており、その領域で赤外線放射の強さ(明るさ)が変化したことがわかる(提供:論文「Jupiter's atmospheric variability from long-term ground-based observations at 5μm」より転載)

これまでの説は、全て岩石惑星である地球の気象学の知見を基にしたものだった。そこで、神戸大学の堀久美子さんたちの研究チームは、木星がガス惑星であり、地球とは異なり地面が存在しないという点に着目した。

木星表面と深部の間には、地面に相当するようなつなぎ目はない。そのため、大気で観測される現象も深部の現象に起因する可能性がある。実際、過去の理論・数値シミュレーション研究により、深部の磁場形成領域では数年以上の周期で磁気的な波である「ねじれ振動」が励起されうること、その振動が木星表面近くの熱流を広い緯度帯で変動させうることなどが示唆されていた。

木星の磁場強度と惑星深部のねじれ振動の概念図
木星の磁場強度と惑星深部のねじれ振動の概念図。(a)木星を貫く磁場。青線と赤線は磁力線を表し、色の濃淡は磁場の強さを表す。探査機「ジュノー」の磁場観測を基に作成。(bおよびc)ねじれ振動の概念図。ねじれ振動は、自転軸を中心とした円柱状の振動で(b)、自転軸と垂直な方向に伝播する(c)。東西向きの流れのゆらぎ(黒線)によって磁力線(赤線)がゆがみ、そのゆがみが磁力線のバネ効果によって引き戻されて、逆向きに流れのゆらぎが生じる。これが繰り返されることで振動が起こり、その振動が磁力線に沿って波動として伝播していく。画像クリックで拡大表示(提供:神戸大学(Nature Astronomy掲載の研究チームの論文より一部改変)、以下同)

堀さんたちは、NASAの木星探査機「ジュノー」が観測した磁場、ハッブル宇宙望遠鏡の観測に基づく表面の風データ、および深部密度の理論モデルから、各緯度におけるねじれ振動の周期を理論的に算出した。その結果得られた値は3~8年で、赤外線観測で見つかった周期性を誤差の範囲内で定量的に説明できることがわかった。

さらに、「動的モード分解法」と呼ばれる新しいデータ解析法を用いて、深部ねじれ振動が期待される周波数域に微小なシグナルを抽出することに成功した。抽出されたシグナルは、期待された波長および伝播速度と矛盾しないものだった。この結果は、周期、波長、伝播速度といった深部ねじれ振動の基本的な特性が大気の観測データに反映されていることを確認するものとなる。

木星赤外線画像データセットから抽出された深部ねじれ振動のシグナル
木星赤外線画像データセットから抽出された深部ねじれ振動のシグナル。赤外線画像の明るさを東西方向に平均し、動的モード分解法を用いて抽出。色と等高線は、明るさの平均値からのずれを表す。横軸は西暦、縦軸は自転軸からの距離。黒の点線は、ねじれ振動の伝わる速さを示す。ねじれ振動の速さで、赤外線画像における時空間変動パターンを説明できることがわかる

今回提唱された説は、従来の惑星大気研究における描像とは大きく異なっている。従来の描像は、岩石惑星である地球での知見を基に他惑星へ拡張されてきたもので、大気現象と深部現象との相互作用はほぼ議論されていなかった。それに対して、今回の研究では、木星に代表されるガス惑星を理解するには、大気現象と深部現象の両方の議論、とくにその統合的な理解が重要であることが示唆された。

ガス惑星の深部領域や磁場の形成現場は直接調べることができないため、理論を制約する実測的な情報が欠落している。その問題を解決するのが、ねじれ振動だ。ねじれ振動は、深部領域の物理的状態を強く反映していて、磁場形成領域内部を「スキャン」することが可能だ。今後、そのようにして得られる情報から、ガス惑星の代表と言える木星系の理解が進むと期待される。

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