小質量の若い星の周りに、惑星材料となり得る分子の「カクテル」を発見

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アルマ望遠鏡による原始星の観測で、宇宙空間で初めて完全重水素化メタノールが検出された。また、惑星材料となり得る物質に豊富な分子が含まれていて、若い星の周りの化学環境が多様で活発であることを示す結果も得られた。

【2026年10月16日 アルマ望遠鏡】

アルマ望遠鏡の大規模観測プロジェクト「COMPASS(Complex Organic Molecules in Protostars with ALMA Spectral Surveys:原始星周辺の複雑な有機分子の分光探査)」は、欧州、北米、そして韓国、日本、台湾を含む東アジアの研究者が参加する国際共同研究プロジェクトだ。COMPASSでは、太陽のような小質量星へと成長する11個の近傍原始星を対象として、その化学組成を系統的に調査している。これまでに行われた100時間を超える観測で得られたデータは、小質量星形成の初期段階における最も詳細な分子組成の記録の一つとなっている。

COMPASSの観測対象となった原始星周囲の柱密度マップと11天体の名称
(左)ヨーロッパ宇宙機関の赤外線天文衛星「ハーシェル」の観測データに基づく、COMPASSの観測対象となった原始星周囲の柱密度(ガスや塵の視線方向の総量)マップなど(図中の「IRAS 16293-2422」はCOMPASSの観測対象11天体には含まれず、別のサーベイで観測された天体)。(右)COMPASSの観測対象となった11個の原始星。画像クリックで表示拡大(提供:COMPASS, Jørgensen et al. 2026)

今回、COMPASSの初期成果として7編の論文が発表された。若い星の周囲の化学環境が従来考えられていた以上に多様で活発であり、原始星の周囲にある惑星の材料となり得る物質に豊富な分子が含まれていることを示す内容となっている。そのなかで中心的なテーマとなったのがメタノール(CH3OH)だ。メタノールは最も単純なアルコール分子で、宇宙空間でより複雑な有機分子を作り出す重要な鍵を握ると考えられている。

発表された大きな成果の一つは、完全重水素化メタノール(CD3OD)の検出だ。独・マックス・プランク電波天文学研究所のArnaud Bellocheさんを中心とする研究チームが、地球から約1000光年の距離にあるペルセウス座分子雲の原始星「IRAS 4A2」の周囲で、通常のメタノールに含まれる水素原子(H)が全て重水素(D)に置き換わったCD3ODを検出した。

宇宙に存在する重水素は通常の水素よりはるかに少ないため、CD3ODを検出することは非常に困難で、宇宙空間で検出されたのは今回が初めてである。また、重水素を4個含む星間分子の初の検出例でもある。CD3ODの存在量はモデル予測の約100倍にも及んでいて、現行の化学モデルでは説明できないという。この成果は、星や惑星が形成される前の段階から、氷に覆われた塵粒子の表面での化学反応によって、希少で複雑な分子が効率よく生成されることを示す強力な証拠となる。

ペルセウス座分子雲の合成画像と完全重水素化メタノールの分子構造
ペルセウス座分子雲の合成画像と、同分子雲内に存在する原始星IRAS 4A2の周囲で発見された完全重水素化メタノール(CD3OD)の分子構造(提供:Ekaterina Moerova / MPIfR; Background: NASA, CXC, SSC, NOAO, DSS; 3D image of methanol: PubChem / National Center for Biotechnology Information)

また、別の大きな成果として、韓国・ソウル大学校のJae-Hong Jeongさんを中心とする研究チームにより、小質量原始星の周囲ではメタノールメーザー放射が従来考えられていたよりもはるかに一般的に見られることが明らかにされた。

メーザーは、特定の条件下で分子が電波を増幅することで生じる、天然の「電波ビーコン」のようなものだ。これまでメタノールメーザーは主に大質量星形成領域で発見されていたが、COMPASSでは観測対象となった小質量原始星の半数以上でメタノールメーザーが検出された。十分な感度で観測すれば、メタノールメーザーを生み出す環境が、星形成初期の比較的一般的な特徴としてとらえられる可能性を示す結果である。

アルマ望遠鏡がとらえた原始星「HOPS 373」の電波画像と、ホルムアルデヒドおよびメタノールの輝線分布
アルマ望遠鏡がとらえた原始星「HOPS 373」の電波画像。左端はホルムアルデヒド(H2CO)の分布を示し、右の3枚は異なる遷移に対応するメタノール(CH3OH)の輝線分布を示している。2枚目の画像で強く検出されたメタノールメーザー候補を、3・4枚目のメタノール分子の熱的な輝線放射の分布に青色の等高線で重ねてある。最も強いメーザー放射の位置を赤い十字で示す。緑色の等高線は、中心星によって加熱された塵から放射される波長1mmの連続波放射の分布を示す。画像クリックで表示拡大(提供:Jeong et al. 2026の図1をもとに作成)

「今回の成果は、恒星形成のごく初期段階がすでに豊かな化学組成を持っていることを示しています。アルマ望遠鏡によって、非常に弱い分子や希少な分子、さらには他の多くのスペクトル線に埋もれていた分子の信号まで検出できるようになりました。COMPASSによって、惑星が誕生する以前の段階で化学的複雑さがどのように発達するのかが見え始めています」(COMPASSプロジェクト共同研究代表者、ソウル大学校 Jeong-Eun Leeさん)。

今後さらにデータ解析が進めば、形成中の星々に見られる化学的多様性が誕生環境に由来するものなのか、それとも星や惑星の形成過程で生み出されるものなのかが明らかになると期待される。

原始星の周囲で生じる電波放射の想像図
原始星の周囲で生じる電波放射の想像図。中心にある非常に若い星は原始惑星系円盤に包まれている。メタノールのメーザー放射(青色)は、アウトフローが作る空洞の縁や弓状の衝撃波面(バウ・ショック)に沿ったメタノールの熱的放射(赤色)と空間的に対応しているが、メーザー放射自体は、よりコンパクトな塊状の構造に集中している(提供:Jae-Hong Jeong / Jeong-Eun Lee / NRAO)

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