高密度星団形成領域における星形成活動の全貌

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地球に最も近い高密度星団形成領域「へびつかい座A領域」をアルマ望遠鏡とJWSTで観測した高解像度データから、複数の惑星質量天体や原始星のアウトフローなどが見つかり、この領域における星形成活動の全貌が明らかになった。

【2025年9月11日 国立天文台 科学研究部

地球から約450光年の距離にある「へびつかい座A領域」は、私たちから最も近い高密度星団形成領域として、星形成の初期段階などを調べることができる非常に貴重な領域だ。

国立天文台の中村文隆さんたちの研究チームは、アルマ望遠鏡とジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の高解像度観測データを用いてこの領域における15億~150億kmほどのコンパクトな構造を調べ、7つの惑星質量天体を発見した。

そのうち3つ(ALMA OphA 3/4/5)は近赤外線源を伴っており、非常に若い浮遊惑星か褐色矮星である可能性が高いとみられている。質量は木星質量の10倍程度と推測され、非常に小さい。

3つの惑星質量天体
3つの惑星質量天体(ALMA OphA 3,4,5)(提供:国立天文台 科学研究部リリース、以下同)

残る4つ(PSS OphA 1/2/3/4)は赤外線点源を持たない高密度のコアで、へびつかい座A領域内の(西側)フィラメントや、ガスや塵が高密度で存在する「リッジ(ridge)」といった大規模な構造の縁付近に位置していた。質量は木星の数十倍と推測され、将来、浮遊惑星や褐色矮星へと進化する可能性があるとみられている。

褐色矮星の形成プロセスは、恒星のように分子雲が収縮する際に重力不安定によって形成されるというものと、原始惑星系円盤内で惑星のように形成されるという2つの過程が議論されている。今回の発見は、褐色矮星の形成プロセスの解明に役立つ観測的な制約を提供するものと期待される。

また、これらの高密度コアは三重連星系(VLA1623-2417)から伸びる指のような構造につながっていることも明らかになった(下図パネル(b)水色の矢印)。惑星質量天体が近くの原始星連星系(VLA1623 Aa+Ab)から放出された可能性を示唆する結果で、天体の形成と放出のメカニズムの理解につながる手がかりとなる。

4つ惑星質量の高密度コア
4つ惑星質量の高密度コア(PSS OphA 1,2,3,4)

さらに、原始星のアウトフローやジェット、原始星に駆動されたと考えられるハービッグBe天体とみられる双極の赤外線構造も同定された。複数のコンパクトな天体が原始星の強力なアウトフローの影響を大きく受けていることもわかり、原始星による局所的なフィードバックが個々のコアの進化や分断化に強い影響を及ぼし得ることが示唆された。

そのほか、磁場の影響を受けているとみられる平行な縞模様や、リッジ構造の切れ目から低密度の温かいガスが流れ出ている様子といった、これまで知られていなかった多様な構造も明らかになった。

今回の研究から、へびつかい座A領域における惑星質量天体の存在や、原始星のアウトフロー、磁場や乱流の影響など、多種多様な情報が得られた。高密度星団形成領域における星形成活動の研究が大きく進むことが期待される。

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