赤ちゃん星の“食事”には自分自身の磁場が役立っている
【2025年5月16日 京都大学】
誕生して間もない原始星は、周囲の原始惑星系円盤(以降、ガス円盤)からガスを取り込んで成長する。ただし、円盤のガスは回転していてそのままでは原始星へと落ちていかないため、円盤ガスの回転を弱める何らかのしくみがあると考えられている。
ガスの回転を弱める重要なしくみの一つが「磁気回転不安定性」だ。これは円盤の中に乱流のような磁場が生じて電離ガスにまとわりつき、回転を減速させる。しかし、原始星とガス円盤の境界付近ではこの不安定性は起こらないと考えられていて、何か代わりのしくみがあるはずだとされていた。
原始星とその周囲を取り巻く原始惑星系円盤の想像図(提供:NASA-JPL)
武蔵野美術大学(研究当時:大阪大学)の高棹真介さんたちの研究チームは、原始星自身が持つ強い磁場が円盤ガスの回転を減速させるのではないかと考えた。原始星は太陽に比べてはるかに強い磁場を持つと考えられていて、原始星とガス円盤の関係を探るには、磁場を考慮した数値シミュレーションで両者をまとめて扱う必要がある。しかし、原始星と円盤の境目ではガスの密度や磁場の強さなどが急激に変わるため、計算が非常に難しく、精密な計算は行われていなかった。
高棹さんたちは、大阪大学D3センターのスーパーコンピューター「SQUID」と国立天文台の「アテルイII」を使い、物理量が大きく変化する領域の計算が可能な手法などを工夫することで、太陽型星の原始星の大規模な3次元シミュレーションに成功した。
今回のシミュレーションで示された、原始星が磁化した円盤ガスを取り込む様子。各パネルの図は、円盤の回転軸に沿った3次元構造の断面図を示す。プラズマβは磁場のエネルギー密度に対するガス圧の割合を表し、色が暗い部分ほど磁場の影響が大きいことを意味する(提供:高棹真介、以下同)
計算の結果、円盤ガスの落下には複数のメカニズムが関わっていることが明らかになった。とくに、星の表面から円盤に向かって複数のスパイラル状の衝撃波が作られ、これが円盤ガスの回転を減速させて、原始星へと落とし込むことがわかった。
このスパイラル衝撃波を生み出しているのは、原始星自身の強い磁場のようだ。原始星が磁場を持つ円盤ガスを取り込むと、原始星内部の対流によって円盤ガスの磁場も一緒に引き込まれ、星の表面に太陽黒点のような強い磁場領域が作られる。この領域がスパイラル衝撃波の発生源となっていた。
こうしたスパイラル衝撃波が存在することはこれまでも予測されていたが、過去の研究では原始星の磁場の影響は考慮されておらず、衝撃波の強さもそれほど大きくないとされていた。今回の研究は、原始星自身の磁場が衝撃波を生み出して円盤ガスを落下させるという、原始星が成長する新たなしくみを示唆するものだ。
(左)原始星とガス円盤を含む領域のガス圧の分布。原始星の表面から円盤内にスパイラル衝撃波が伸びている。(右)スパイラル衝撃波発生の概念図
また、原始星と円盤の境界からジェットが噴き出して円盤ガスの角運動量(回転の勢い)を外へと運び出す様子も確認された。この作用でもガスは回転が遅くなり、星へと落ち込みやすくなる。このように、円盤の赤道面だけでなく、回転軸方向に現れる構造も、ガスの落下を促す重要な働きをすることがわかった。
さらに、原始星の近くから外側の円盤へとガスが大きく循環していることも明らかになった。始原的な隕石には「CAI」という太陽系最古の鉱物を含むものがあり、このCAIの材料物質は1000K以上の高温や高エネルギー粒子にさらされていることが知られている。今回の結果から、原始星のフレアによる高エネルギー粒子を受けた物質が外側の円盤に運ばれてCAIが作られる、といった可能性が示唆される。この成果は、星の誕生のメカニズムと太陽系誕生の歴史とをつなぐ重要な手がかりにもなるかもしれない。
〈参照〉
- 京都大学:赤ちゃん星がガスを食べて成長する様子を大規模3次元シミュレーションで世界初観測 − 星の誕生メカニズムと太陽系起源の解明に期待 −
- The Astrophysical Journal:Connecting a Magnetized Disk to a Convective Low-mass Protostar: A Global 3D Model of Boundary Layer Accretion 論文
〈関連リンク〉
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