「宇宙の噴水」の根元を観測、連星の最終進化の始まりに迫る

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「宇宙の噴水」と呼ばれる天体から噴き出す双極ガス流の根元付近の構造が、メーザー観測により明らかになった。進化の最終段階に入った連星系とみられる天体の貴重な観測例となる。

【2026年10月14日 国立天文台野辺山宇宙電波観測所】

恒星は星間ガス雲が収縮して形成されるが、多くの場合、同一のガス雲から2個以上の恒星が同時に作られ、連星として誕生する。それぞれの星は進化して、質量の大きいほうが先に寿命を終え、外層のガスを吹き飛ばして中心部(のちの白色矮星)だけが残る。さらにもう一方の星も寿命を迎えて膨張すると、連星間の距離が小さい場合、白色矮星が飲み込まれる状況が生まれる。

このとき、後から膨張した星から白色矮星に向かって物質が勢いよく降り注ぐと考えられる。白色矮星の周囲には降り注いだ物質が高速で回転する円盤が作られ、その一部は円盤の両極方向に高速のジェットとして噴き出すと予想される。

こうしたジェットのうち、水メーザーが存在するものを「宇宙の噴水」と呼ぶ。宇宙の噴水はこれまでに20天体程度しか見つかっておらず、長いものでは100億年にも及ぶ星の一生のうちのわずか100年程度しか宇宙の噴水として観測できないと考えられている。

鹿児島大学の今井裕さんを中心とする研究チームは過去の研究で、さそり座の方向約2万7000光年の距離にある宇宙の噴水天体「IRAS 16552-3050」を野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡で観測し、水だけでなく一酸化ケイ素のメーザーが出現していることを発見していた。この天体は連星系と推定されるが、メーザーのスペクトルだけでは、メーザー源がこの星系のどこでどのように生じているのかはわからない。

IRAS 16552-3050の赤外線画像と同天体付近の想像図
(左)IRAS 16552-3050の赤外線画像。中心の赤い天体が同天体を示す。中心の×印と円は、野辺山45m電波望遠鏡の視野中心と視野の大きさを示す。(右)IRAS 16552-3050付近の想像図(提供:(左)NASA/JPL-Caltech/UCLA、(右)木下真一郎/鹿児島大学)

そこで今回、メキシコ・グアナファト大学のLucero Uscangaさんと今井さんを中心とする国際研究チームは、オーストラリア望遠鏡コンパクト干渉計(ATCA)を用いてこの星系を観測した。その結果、以前から存在が確認されてきた水メーザーの分布のほぼ中央に、一酸化ケイ素メーザーの分布域が存在することが明らかになった。外側に広がって見える水メーザーの領域はジェットの形状を、一酸化ケイ素メーザーの領域はジェットの根元付近で低速で広がるガス流の存在を、それぞれ示すものと考えられる。

IRAS 16552-3050からの水・一酸化ケイ素メーザー放射のスポット分布
ATCAによる撮像で観測された、IRAS 16552-3050周囲の水(H2O)メーザーおよび一酸化ケイ素(SiO)メーザーのスポット分布(点状のスポットとして見えるメーザー放射の分布)。以前から確認されていた水メーザーの分布のほぼ中央に、一酸化ケイ素メーザーの分布域が存在している(提供:Uscanga et al. 2026 Fig. 5改変)

水や一酸化ケイ素のメーザーを励起する物理条件などを含めて考察すると、この星系では次のような進化が進んでいると推測される。この星系を覆い、一酸化ケイ素メーザーを励起する星周物質の外層は、300年以上前から発達してきた。一方、約20年前から急速に発達した双極ジェットがこの層の物質に衝突するようになり、一酸化ケイ素メーザーの励起が始まったとみられる。

また、野辺山45m電波望遠鏡による継続観測では、一酸化ケイ素メーザーが観測された期間は3年以内に限られていて、メーザーを励起するほど強いジェットの放出は断続的に起こっている可能性が示唆される。

今回見つかった一酸化ケイ素メーザーの放射分布や時間変化と同様の現象は、今後10~20年以内に再び観測されると期待される。その際には、この天体が本当に連星系なのかどうか、連星であればその軌道周期やそれぞれの星の質量・進化段階などを明らかにできるかもしれない。そうなれば、これまで新星やIa型超新星として輝くまで推定材料が得られなかった連星系の進化について、宇宙の噴水天体の観測から、その手前の段階を理解する手がかりが得られるだろう。